「普通のおばさん」を肯定してくれる存在

 「おばさん」という言葉は単に中高年女性を敬い親しんで言う便利で一般的な言葉であるはずなのに、いつの間にか「女性らしさを放棄した」「図々しい」というようなネガティブな意味が込められて過ぎてきているように感じます。いまでは呼ばれる側には嫌悪感を生じさせ、呼ぶ側にもためらわせる呼称となっています。

 その根底にあるのは、「女性の魅力は若さにある」「歳をとればとるほど、女性の価値は下がる」といった誤った価値観がいまだにはびこっているから。女性たちはよく花に例えられますが、それさえもタイムリミット(年齢)に脅かされている表現の一種。

 さらに「オトナ女子」というややこしい言葉が開発されたり、アンチエイジングを謳う商材がたくさんあり、若さに一生執着せざるを得なくなっている。社会通念としても若い方がよしとされ、「普通のおばさん」になることが許されない世の中になっているんです。

 それはつまり、自分の年齢を気にすればするほど、生きにくくなってしまうということ。そのことに疲れている人も多いのではないでしょうか。人生100年時代と呼ばれる現代は若者でいるよりも中年以上の時間のほうが圧倒的に長いはずなのに、そこにいる自分を忌み嫌うように生きなくてはいけないのはつらいですよね。

 最近では『私がオバさんになったよ』の著者でもあり、ポッドキャスト番組「OVER THE SUN」で人気のジェーン・スーさんなどが、「おばさん」の価値観を現代にアップデートし、侮蔑語として成り下がった言葉を自分たちのコミュニティに取り戻そうとしてくれています。その共感の広がりもあり、阿佐ヶ谷姉妹がメディアの中で「普通のおばさん」としてそのまま存在してくれていることに、安心感、安定感、親近感を抱く人もたくさんいるのだと思います。

 生きていれば年は取るけど、常に今の自分が最高だと思いたい。「おばさんだものね」と自虐しつつも否定しない阿佐ヶ谷姉妹の二人を見ていると、いくつになっても自分を肯定して生きていい、いくつになっても楽しく生きていい、と思わされ、励まされます。

 若さだけに価値を見いださず、歳を重ねていくことを肯定する空気の醸成は大事です。今年は「その女、ジルバ」(東海テレビ)、「大豆田とわ子と三人の元夫」(関西テレビ)、「ソロ活女子のススメ」(テレビ東京)と、主人公の40代女性が軽やかに生きるドラマがたくさんありました。本作はその流れを汲んだ、エンパワメント的作品でもあります。生き生きした女性たちの可視化という意味でも、阿佐ヶ谷姉妹の功績は大きいです。

※ちなみに「おばさん」という呼称について、大人の女性を侮辱する目的で使用しては絶対にダメ。本文中では愛情を込めた一般呼称として使用しています。

女性同士の共同生活も新しい生き方のひとつ

 本作を楽しむ上で注目したいのは、「40代」「未婚」という記号を持つ阿佐ヶ谷姉妹の共同生活。同居すれば家賃が安くなるという金銭面のメリットももちろんありますが、エリコさんは「ミホさんといると楽しいから」という理由でミホさんに同居を勧めます。

 そこから見えてくるのは、家族でもカップルでない人間二人が、一つのユニットとして暮らしていくことの可能性です。一人暮らしは、気楽さや身軽さという利点もある。でも、一人では経済的にも、精神的にもつらくなる瞬間がある。そんなとき、信頼できる人と一緒に生活するというのはとても心強い選択になると思います。

 男性が優遇された不均衡な社会のなかで生きる女性同士の絆や連帯「シスターフッド」をテーマにした作品は近年増えています。生き方について先の見えない不安や重たい気持ちを抱いている人は、二人の共同生活が何かのヒントになるかもしれません。

 たとえば結婚をしないと一生独りで暮らすのではないか、老後はすごく寂しいのではないかという問題。結婚していないという状態は、なにも一人で生きるという選択をしているわけではないんですよね。実際は、シングルと結婚の間にもたくさんの選択肢があるんです。網戸が外れた時に手伝ってくれる人、切れた電球を変えてくれる人は、何も恋人でなくてもいいんです。

 このドラマは実際の女性二人暮らしを、切迫したものとしてではなく、「のほほん」としたものとして描いているところも、いいところ。世間からのプレッシャーや苦痛を感じることもなく、平静で穏やかな暮らしを手に入れた二人がなんだか頼もしくみえてきます。

 もちろん、他人との同居は面倒くさいことも多いことは本作でも伝えていますが、それは家族でも夫婦でも同じこと。二人の生活を観ていると、他人と関わりながら、自分ではコントロールできないような価値観も受け入れたり葛藤することも案外楽しいことなのかも、と思えてきます。それぞれの考え方を受けとめ、お互いの人間性を認め合うことが、楽しく快適に暮らすために必要なことなんですよね。

2021.11.29(月)
文=綿貫大介