郷土料理こそがイタリア料理の真髄!
イタリア各地方の郷土料理や、マンマが工夫して作った料理を研究している齊藤奈津子さんが、家でもできる簡単なイタリア料理をご紹介する本連載。
今回は番外編として、イタリアのクリスマスのお菓子「パネットーネ」について教えてもらいました!
生み出したのはミラノの見習いシェフ?
「パネットーネ」というイタリアの発酵菓子、ご存じですか? 地域を問わずイタリア全土で愛される、伝統的な国民的クリスマス菓子です。
イタリアには各地域に根付いた様々なクリスマス菓子があります。イタリア人はおらが村愛が強いので、地元のクリスマス菓子が大好きなんですが、そのなかでもパネットーネは別格!
そんなイタリア人の心「パネットーネ」、じつは東京都内にも専門店が出来るなど、最近じわじわと日本でもブームの兆しが見えてきました。
というのも、コロナの影響もあり賞味期限の長い焼き菓子が注目されているとか。
パネットーネとは一体どんなケーキなのでしょうか?
その誕生の由来には色々な説があるそうです。15世紀ごろ、ミラノを統治していたスフォルツァ家でクリスマスに出す予定のケーキが焦げてしまい、慌てて見習いシェフのトーニ君が余った小麦粉に砂糖漬けフルーツやレーズンなど入れて焼き上げました。それがとても美味しく、「パン・デ・トーニ(トーニのパン)」→「パネットーニ」となった、というのが有力な説。
ほかにもミラノの貧しい父親が、娘の恋人の青年にプレゼントするために奮発して焼き上げたケーキが由来……などなど。
イタリアはひとつの料理やお菓子に対して誕生秘話がいくつもありいつもちょっと曖昧なんです。
ただ、寒い北イタリアではかつて小麦粉は貴重でケーキは上流階級の人々や特別な日にしか食べられなかったそう。トーニくんの説も、貧しい父親の説も歴史的にみれば有力な説です。
その後、様々な形や作り方を経て、1900年代にアンジェロ・モッタというミラノのパン職人が、紙で出来た型を使ってドーム状のパネットーネを量産し、一気に広がっていったとされています。
パネットーネの要は“生まれたての子牛が初乳を飲んだ後の腸内から取り出した物質に小麦粉を混ぜたもの”
そんなパネットーネ、とにかく作るのにとてつもなく手間がかかります。
イタリア人曰く「昔は家でも焼いていたんだけど、今は買うのが当たり前」だそう。
材料には、北イタリアで発見されたリエヴィト・マードレと呼ばれる酵母と乳酸菌が共生する特殊な酵母菌(パネットーネ種)を使います。
このパネットーネ種、“生まれたての子牛が初乳を飲んだ後の腸内から取り出した物質に小麦粉を混ぜたもの”とのことですが、一体誰がいつそんなことを思いついたのか気になるところです。
パネットーネ種に小麦粉など材料を加え、何十時間もかけて発酵し焼き上げ、焼き上がったら高く膨らんだ生地がしぼまないように逆さまに吊るし、1日か2日かけて冷まして完成です。
発酵と生地を休ませる作業を何度も何度も繰り返すのですが、これが普通のパンに比べるととてつもなく時間がかかるそう。しかも天然酵母ゆえ、毎日毎日このパネットーネ種を365日徹底管理し再生させなければならず、それも含め本当に手間のかかるお菓子です。
イタリアに住んでいた頃、せっかくだから自分で焼いてみようと思いレシピを読んだのですが、あっさり断念しました。
パンを膨らませるために水分量が少なく、特殊な乳酸菌のお陰で長期保存も可能なんです。さすが先人の知恵の発酵食です。
ちなみに食の先進国イタリア、パネットーネは原料やその最低限の使用量、製法もイタリアの厳しい法律によって決められています。こうすることで伝統的なレシピや製法を守っているんですね。
2021.11.24(水)
文・写真=齊藤奈津子