せかせかと通り過ぎていたいつもの道。でも、よくよく野草を見つめてみると、つるや茎を伸ばし、小さな花を咲かせ、思わぬ美しさを秘めていることに気づかされます。
身近に存在しているのに雑草として括られ、名前すら知らない……。でも、一つひとつ見れば可憐で逞しく、季節を楽しむ手がかりがありそう。
ということで、CREA WEBで「今日、花を飾るなら。ブルームカレンダー」を連載しているフラワーデザイナーの佐藤俊輔さんと一緒に、東京の街を散策しながらささやかな外遊びの楽しみを教わりました。
身近で見つかる野草の楽しみ方
野山に限らず、身近なところにも野草は自生しています。過ごしやすくなってきた都内某日、気軽に楽しめるアウトドアとして、街を歩いて出合える秋の草花探しに行きました。
「ありふれた野の花や道ばたの草でも名前がわかると、ただの雑草だと思っていた頃と比べ、楽しさが倍増します。バラやコスモスなどの華やかな園芸植物を見に、植物園や花畑を訪れるのはもちろん魅力的ですが、季節の草花は道ばたの花壇や植え込みなどで気軽に楽しむことができますし、意外と個性的な風情にあふれているんですよ」
星の数ほどある野草の名前を覚えるのは簡単ではないと、道草をひとときガイドしてくれた佐藤俊輔さん。そのコツも伝授してもらいました。
それは、植物の大きな分類だけ覚えること。
「たとえば、ハギといってもヤマハギやミヤギノハギなど多くの品種がありますが、属の名前のハギがわかるだけでも結構楽しめます。もっと大きな分類だとハギはマメ科で、同じマメ科にはスイートピーなどがあるんです。ハギの花をズームアップして見ると花姿などが似ていて、スイートピーを小さくしたような形をしているんですよ」
サクラとバラは同じバラ科、マリーゴールドとカモミールはキク科、花姿から「バラ科っぽい」「キク科っぽい」という視点で見ていくと、カジュアルに野草に親しめます。
「品種名から覚えようとすると、名前がややこしくて専門的で敬遠してしまうかもしれませんので、ぜひ、科や属といったざっくりしたところから入るのがおすすめです」
編集部のそばを数分歩いただけでも、素朴で生命力にあふれている野草がたくさん見つかりました。1cmに満たないような小花も多く、遠くから何となく見るだけでは見逃してしまいそうですが、しゃがんだり近づいたりして見てみると、新たな発見が。
「あ、ヤブランの花が終わりかけて、緑色の実がふくらみ始めていますよ」
8月から10月頃にかけて紫色の花が先から密になり、びっしりと咲くヤブラン。緑色の実も、やがて黒色に変わり、寒さが増すごとに実を落としていくのだそう。
やや日陰の道ばたには、細長い花穂に小花をまばらにつけている馴染み深いミズヒキが。おめでたい草姿から、茶花としても親しまれていますが、赤色の4枚の花びらのように見えるのは、ガクなのだそう。
「この白くて小さな星のような可愛い花を咲かせているのはアベリアです。漢字で『花衝羽根空木』と書くのですが、プロペラのように広がる5枚のガクが、花が落ちても残って羽根つきの羽根のように見える、ということに由来しているんですよ」
ほかにも紫色の小花を咲かせているのは何かと聞いてみると、よく知っているはずのローズマリーだったり、花弁が縮れていて可愛らしいサルスベリだったり、夏に咲くフヨウだったり……。少し散策してみるだけで、花屋さんには並ばないような秋の草花が見つかります。
―編集部の近辺で見つけた野草―
●ハギ(萩):マメ科ハギ属
●サルビアガラニチカ(メドーセージ):シソ科アキギリ属
●サルスベリ(百日紅):ミソハギ科サルスベリ属
●ヤブラン(藪蘭):キジカクシ科ヤブラン属
●アベリア(花衝羽根空木):スイカズラ科ツクバネウツギ属
●ミズヒキ(水引):タデ科ミズヒキ属
●パンパスグラス(白銀葭):イネ科シロガネヨシ属
●フヨウ(芙蓉):アオイ科フヨウ属(ヒビスクス、ハイビスカス属)
●ローズマリー(迷迭香):シソ科マンネンロウ属
2021.10.16(土)
文=大嶋律子(Giraffe)
撮影=榎本麻美
写真提供=神代植物公園