しみじみゆかしい秋の七草
秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七種の花
萩の花 尾花 葛花 瞿麦の花 をみなへし また藤袴 朝貌の花
―山上憶良『万葉集』より二首―
「食べて楽しむ春の七草と違い、秋の七草は見て楽しむもの。和歌に詠まれたり、和服の柄に描かれたり、歴史的にも草花を愛でてきたことがわかります。秋の七草を嗜みとして日常に取り入れてみるのも、暮らしが潤うと思います」
ハギ、オバナ、クズ、ナデシコ、オミナエシ、フジバカマ、キキョウの七草。中でも蝶に似た形で、ピンクや白い小さな花を咲かせるハギは、『万葉集』に最も多く詠まれていることからも、古くから日本人に親しまれてきた野草であることがわかります。
「秋になると日本のどこにでも見られるハギですが、切り花として花屋さんで見かけることは少ないと思います。ポットに入った鉢花としてはよく見かけますので、ホームセンターなどものぞいてみましょう」
秋の収穫の感謝を込めて、収穫物やお団子とともに月にお供えするススキは、稲穂に見立てて飾ったと言われています。
「ススキはだんだんと穂が垂れてくるので、お部屋に飾るならススキと同じイネ科のパンパスグラスが映えると思います。インテリアにもなりますし、無理なく楽しめますよ」
「クズは、野草専門のお店か野山に入らないと手に入れるのは難しいですね。キキョウとオミナエシ、フジバカマ、ナデシコは花屋さんで比較的簡単に手に入ります。
もしナデシコがない場合は、代わりにカーネーションを愛でるのもよいかと。一重のカーネーションはナデシコと見分けがつかないくらい似ているので、探してみるのも面白いかもしれません」
「朝貌の花」は諸説ありますが、キキョウのことだと言われています。星形の一重の花が特徴のキキョウは、身近に見ることができますが、野生のキキョウは絶滅危惧種に指定されるほど少なくなっています。
「最近は、一重とは違う華やかさがプラスされた、八重咲きのキキョウがトレンドになりつつあります。どちらも、どこか気品があって、優しいイメージは変わらないですね」
秋の七草の中で、今回の散策ではハギとキキョウとススキに出合うことができました。都内で秋の七草をすべて見つけるなら、今回七草の写真をお借りした「神代植物公園」などの草花の種類が多い公園に行くのがおすすめだそうです。
「調布にある神代植物公園では、膨大な種類の植物を楽しむことができます。秋の七草が揃って見られるのは非常に貴重ですし、それ以外にもパンパスグラスをはじめとした秋の草花、樹木の紅葉なども見事ですよ。
次のページでは秋バラをご紹介しますが、神代植物公園のばら園も素晴らしく、いつ行っても希少な種類が美しく咲いています。状況が許せば、一日かけてのんびりと見て回りたい場所です」
「街中の公園の花壇も、どこも同じように見えて実は違います。地域の気候などによって植えられているものが違うのはもちろんですが、最近は公園の花壇の管理を、自治体ではなく市民団体やNPOに委託しているケースがほとんどだからです。
管理団体が違うと、隣の市や区の公園では植えられている花が違う、ということもありますので、花壇にフォーカスを当てて散策しても新たな発見があると思います」
2021.10.16(土)
文=大嶋律子(Giraffe)
撮影=榎本麻美
写真提供=神代植物公園