それらは木村拓哉という人間の感覚が「自分以外の世界」に開かれ、その距離を繊細に測っていることの証だ。

「木村さんは、ひとりひとりのことを、ものすごく敏感に、細やかにみてくださっているんです」ドラマ『教場』で共演した川口春奈が、WEB記事のインタビューでそう語ったことがある。

「『大変な時期があっていいんだよ』って。私は、人に弱音を吐いたり、相談とかをしないタイプなんですけど、あるとき木村さんが、『もがいていることを、抱え込んで隠す必要はないんだ。それがかっこいいんだから。大変でいいんだよ』って。何気ないひと言ですが、ありがたいな、気にかけてくださってうれしいなと思いました」

 相談に来たわけでもない川口春奈が「もがいている」ことに気がついたのは、木村拓哉自身もジャニーズ事務所のアイドルとして見られることにもがいてきたからなのだろう。

永遠に若く輝き続けるのではなく、相手を輝かせる俳優

『教場』もまた、主演クレジットは木村拓哉だが、そこで彼が演じたのは若い俳優たちが大舞台で演技を輝かせるための「立ちはだかる壁」の役割だった。川口春奈は木村拓哉の言葉を噛み締めるように、その直後に舞い込んだ大河ドラマ『麒麟がくる』での帰蝶役、沢尻エリカの代役という大きな勝負に駆け上がっていく。

 木村拓哉は来年、50歳を迎える。でもたぶん10年後も、俳優としての木村拓哉はミットを構えて相手女優のストレートを受け止め、人生を歩き始めた若い俳優が自分の歌を歌い始めるための伴奏を演技の中で奏でているのではないかと思う。それは木村拓哉が永遠に若く輝き続けるからではなく、相手を輝かせる俳優だからだ。山口智子より8歳年下だった25年前も、長澤まさみより14歳年上の今も。

2021.10.07(木)
文=CDB