長澤まさみ演じる山岸は、木村拓哉演じる新田刑事が振りかざそうとする「力の論理」を何度もたしなめる。このホテルの中で拳銃や手錠は物事を解決できないのだ、人を疑い、床にねじ伏せて問い詰めるのではなく、深く頭を下げて相手の声に耳を傾けなければわからないこの世の真実があるのだ、という「知の力」をヒロインが説くストーリーは、『美女と野獣』『王様と私』などの、男女の寓話を描いた過去の名作古典を思い出させる。

 そして今回の続編では、ヒロインもまた刑事から何かを学び、物語のある場面で、顧客の求めるサービスに対し深く静かな拒絶の言葉を口にする。

 

 長澤まさみは去年、『MOTHER』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞した。主演作である『コンフィデンスマンJP』は映画版も大ヒットを記録し、中国映画の『唐人街探偵 東京MISSION』では言わば日本代表の切り札としてヒロイン役を務めるトップ女優だ。

 その折り紙つきの実力で見事に木村拓哉のダンスパートナーを務めるヒロインを見ながら、でもやはり、木村拓哉の相手役を演じてきた過去の名女優たちと同じように、長澤まさみが映画の中である種のリズムに乗り、彼女の演技がジャズの演奏のように自由にスウィングしているのを感じる。

 それは木村拓哉の演技の本質が、自分がマイクを握りしめるボーカルではなく、ヒロインを歌わせるためにリズムを作り出す伴奏だからだ。

 ほとんどの作品で主演俳優にクレジットされ、もう30年もその名がスーパースターの代名詞になっている木村拓哉を「名バイプレイヤー」と呼ぶのは、あるいは間違っているのかもしれない。だが、作品の視聴率や成績を常に「主演・木村拓哉」という看板で背負い、世間からはワンマンのスタープレイヤーのように見られながら、彼の演技の本質は相手役を生かすコミュニケーションのリズム、他人への繊細な感性にあると思う。

 記録上はエースピッチャーとして試合の勝敗を背負いながら、実際の試合の中で彼がつとめるポジションはむしろキャッチャーであり、最終的には常にヒロインのセリフがウイニングショットとなって試合を決めているのだ。

2021.10.07(木)
文=CDB