長澤まさみ演じるヒロインが決定的な一歩を踏み出す『マスカレード・ナイト』の美しいクライマックスを見ながら、『ロンバケ』も『HERO』も『ビューティフルライフ』も本当はラブストーリーではなく、それぞれの時代を生きた男の子と女の子のバディフィルム、相棒物語だったのかもしれないと考えていた。

YOUの代わりなんていくらでもいるんだよ!

 TOKYO FMで長く続く木村拓哉のラジオ番組『Flow』の公式サイトには、過去の放送の書き起こしがアーカイブとして残っている。2018年9月、二宮和也をゲストに迎えた放送のアーカイブの中で、木村拓哉が故・ジャニー喜多川氏に触れた言葉が今も読める。

二宮:あ! そうかぁ……。でも、一昔前に「お前の代わりなんていくらでもいる!」って言われてましたけどね。

木村:それ「YOU」でしょ? お前じゃなくて(笑)。

 

二宮:そうそう(笑)。

木村:俺も言われたことある。やっぱり、言いたくなっちゃうんじゃない。レッドゾーンに入るとやっぱり言っちゃうんだよ。

「YOUの代わりなんていくらでもいるんだよ! もうめちゃくちゃだよ!」って。

(中略)

木村:もう、しょっちゅうドッカンしてたよ。うちらって後ろで踊ることがあったじゃん。後ろで踊るっていうことの責任の無さが、たぶん彼を激昂させたと思うんだけど。

 アーカイブの保持期限からすると、このHPの書き起こしはあと1ヶ月ほどで消えてしまうのかもしれない。明白に名指しこそしていないが、それがジャニー喜多川氏の口癖を指していることは誰にでもわかる。

 ファンも所属タレントも「ジャニーさん」と敬称をつけて呼び、多くの芸能メディアがその名を書くことも憚ったその人物を「彼」と呼ぶ木村拓哉の言葉は、2018年9月の時点でジャニー喜多川氏はまだ存命だったにもかかわらず、まるでついに打ち解けなかった厳格な父親の思い出を語るような不思議な距離感とともに心に残った。

2021.10.07(木)
文=CDB