肌色は、色であって色でない。その色をどう再現するか?
b (上から)塗布直前にパフ上で3色をブレンドすることで、自然な肌色が実現。AQ MWエレガントブレンド ファンデーション SPF20・PA++ 7種 ¥11025(ケース込)、上品なツヤで小ジワもカバー。同 シークレット グロウ 2種 ¥6825/コスメデコルテ
c (右から)健康的な輝きをミニマムステップで実現するライン。繊細な粉が魅力のフェイスパウダー。レ ベージュ プードゥル ベル ミン SPF15・PA++ 2色 ¥6930、みずみずしいBBクリーム。同 クレーム ベル ミン SPF30・PA+++ 2色 ¥6615/シャネル
d シミ、色ムラに働きかけるスキンケア成分も配合。イーブン ベター メークアップ 15 SPF15・PA++10色 ¥4725/クリニーク
肌色……それは色であって色じゃない。少なくとも、赤や青、白や黒といった明快な色とは、決して一緒にはできない複雑怪奇な色。表現するのがこの世でいちばん難しい色と言ってもいい。そもそも絵の具やクレヨンも、ジャストの肌色を描けない。“肌色”という名の色1色では、肌色を決して表現できないのである。
絵画の世界で肌色を表現する時は、黄に赤に青に緑にと、本当にいろんな色が複雑に使われる。それも、筋肉に血液に血管に脂肪にと、いろんな組織を半透明の角層を通して覗き込むように見ている色だから。もともと平面の紙の上で表現できるような簡単な色じゃなく、だからファンデの色設計は、恐ろしく難しいのだ。
もちろんファンデのカラーバリエが10色近く用意されていたりするのは、肌づくりのそんな難しさに対応するためだけれども、それでもドンピシャな色がない悩ましさ。
でもそういう肌色の不思議にあらためて挑むブランドが増えてきた。カラーバリエも単にたくさん作ればいいってものじゃない。肌色の不思議に斬り込んでいく色設計じゃなきゃ意味がないと考えたブランドが。
肌色は決して“血液”の色を無視しちゃいけないと考え、ヘモグロビンの色を再現してファンデの層に加えたのがコスメデコルテ AQ MW。血液を意識しただけでハッとするほど冴えた肌ができあがることに気づかせてくれた。ここはさらにハイライターで肌の上のツヤの色とハリの色、透明感の色をそれぞれ再現。なるほど、顔という複雑な立体の上では、ハイライトとなる色も1色じゃない。質感や光の当たり方でいろんな明るさがあるから、それをひとつひとつ再現したのだ。だから仕上がりがウソみたいにリアルで美しい。
逆に、肌色はどうしたらいちばん美しく見えるのかという大正解を示してくれたのが、クリニークのイーブンベター。「今日は肌がキレイ」と人に褒められるのは、決まって肌色が“明るく均一”な時。その状態を意識して再現、トラブルの痕跡さえ感じさせない“なめらかさ”も肌色の均一感で表現したものだから、肌そのものが本当にキレイに見える。“キレイな肌”って、じつは肌色で作るのだ! と教えてくれたのだ。
キッカは、鎖骨近くのある一点の肌色に合わせて“肌色選び”する独自の理論をもつブランドだが、新作のパウダーファンデに濃淡3色のグラデをセットしたのも、単に立体感を作るためだけじゃない。ひとりの肌色もひとつじゃない。季節によっても日によっても変わるから、明るめと暗めを用意しておくべきとのこだわりから。なるほどの提案だ。
そしてシャネルが“肌色の洗練”というここにしか表現できないもので示したのがレ ベージュ。これぞ絶世のナチュラルと言える上質の肌色を、ブロンザーでもハイライターでもない、自然光の下でもっとも美しく健康的な“ベージュ”がおしろいとBBクリームで提案されたのだ。もともとベージュはココ・シャネルが愛した特別な色、それも女性の肌の色だから。そのこだわりがあらためてここに凝縮され、女をいちばんキレイに見せるベージュが生まれたのである。
肌色に人一倍こだわるブランドの勝ち。その意味がわかったはずだ。
齋藤薫 Kaoru Saito
女性誌編集者を経て美容ジャーナリスト/エッセイストに。女性誌において多数のエッセイ連載を持つほか、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍。『人を幸せにする美人のつくり方』(講談社)、『大人になるほど愛される女は、こう生きる』(講談社)、『Theコンプレックス』(中央公論新社)、『なぜ、A型がいちばん美人なのか?』(マガジンハウス)など、著書多数
Column
齋藤 薫 “風の時代”の美容学
美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍する、美容ジャーナリスト・齋藤薫が「今月注目する“アイテム”と“ブランド”」。
2013.06.18(火)