開明的な自然科学と写生の技法が結びついた時代
第三章では18世紀京都画壇の雄、円山応挙と、その共鳴者・呉春による「円山四条派」を取り上げる。応挙は初め狩野派に学んだものの、古典とされる絵を忠実に描き写す教育法が、現実にある風景や動植物をよく観察し、事物の本質を描き出そうとすることから絵師たちを遠ざけていることに気づき、「写生」へと傾倒していった。一方徳川吉宗による、各藩の天然産品の調査や採薬使の派遣といった産業振興のための物産政策、そして17世紀に到来した明の『本草綱目』などをきっかけに、大名たちから庶民の間まで自然科学や博物学的な学問領域への関心が育ち、精細な博物画が数多く作られていた。そんな動きの合流する地点で描かれた応挙の華やかな「孔雀牡丹図」、そしてより装飾的な効果を求めることに傾いていった森狙仙や岸駒ら関西圏で活躍した絵師たちの作品から、江戸の「写生」の変転を追う。
江戸を離れて花開いた奇想の絵師たちの世界
第四章はお待ちかね、奇想の絵師たちの登場である。将軍の膝元から離れた京都や大坂では、禅宗の黄檗僧が来日して中国の詩や絵画を教え、長崎には清の沈南蘋が来航して写生画法を伝えていた。町人、僧侶、学者らが幅広いネットワークを作り、新しい思潮を生み出していく中で、美術にも保守よりも革新、停滞よりも前進、常識的な判断よりも大胆な発想が求められた結果、伊藤若冲や曾我蕭白、長沢芦雪らの個性的な造形が評価されるようになっていく。後に美術史家の辻惟雄氏が著作で「奇想の」と名付けたこうした絵師たちを、この第四章では存分に紹介する。
江戸の都市文化が育んだ浮世絵の到達点
そして展覧会の締めくくりは、すっかり江戸のものだと思われながらも、実は京都から始まった「浮世絵」を、「都市生活の美化、理想化」と題して見ていく第五章。桃山時代から江戸時代にかけて、それまでの権力者に仕える絵師が添えもののように描いた庶民ではなく、同時代の人々の生きる姿を、同じ目線で率直に写し出した「風俗画」が現れる。それが江戸に場を移し、浮世絵という新しいジャンルとなって隆盛していくのだが、よく知られる木版画だけでなく、肉筆で1枚1枚描かれる、いわば「高級品」もあった。遊郭や芝居小屋など遊興の地に取材し、都市生活の華やぎを美しく理想化して描いたこれらの浮世絵は、高度に都市化された社会で生きる現代の私たちにも、深く共感できるに違いない。
ファインバーグ・コレクション展 ――江戸絵画の奇跡――
URL www.edo-kiseki.jp/index.html
会場 江戸東京博物館
会期 ~2013年7月15日
休館日 月曜日 (7月15日は開館)
開館時間 9:30~17:30、土曜日は19:30まで (入館は閉館30分前まで)。
料金 一般1300円 ほか
問い合わせ先 03-3626-9974 (江戸東京博物館)
巡回 2013年7月20日~8月18日、滋賀県・MIHO MUSEUM、2013年10月5日~11月10日、鳥取県立博物館で開催。
Column
橋本麻里の「この美術展を見逃すな!」
古今東西の仏像、茶道具から、油絵、写真、マンガまで。ライターの橋本麻里さんが女子的目線で選んだ必見の美術展を愛情いっぱいで紹介します。 「なるほど、そういうことだったのか!」「面白い!」と行きたくなること請け合いです。
2013.06.08(土)