:そうなんですか? よかったああ(笑)。

順治帝の子孫?

──ご先祖は王朝3代目の順治帝とのことですが。

:はい。亡くなった祖父からはそう聞いています。八旗(清の軍事・社会組織)では正黄旗に属していて、すこし前までは他の正黄旗の家とも付き合いがあったみたいです。ただ、私は18歳で日本に来てしまいましたので、詳しいことを聞かずじまいだったのですね。以前はあまり、そういうことに興味がなくて、むしろ日本に来てから関心を持つようになったくらいなので。

──八旗は皇帝直属の「上三旗」と皇族王侯に属する「下五旗」があって、正黄旗は前者側。当然、旗人のなかでも家格の高いおうちです。家伝の財宝がご実家に残されていたりはしませんか?

:それ、人からよく尋ねられるんですが、全然ないです(笑)。中国の民間の家庭で、家伝の財宝は残らないですよ。ただ、むかし、祖父から家譜(家系図)を見せてもらったことはあります。

──お祖父さまはどんな方だったんですか? 

:祖父の名前は愛新覚羅○○で、若い頃は大学教授でした。字輩(同じ一族の同世代の者の名前に共通して用いる漢字)でいうと、ラストエンペラーの溥儀さんの代です。ただ、「溥」とは違う字を使っている家系なのですが。

──たしかに、お祖父さまの字輩と「愛新覚羅」を組み合わせて中国の検索エンジンで検索すると、太祖ヌルハチの末裔とされる実業家、乾隆帝の末裔とされる上海市の人民代表大会代表など、遠縁のご親戚らしき人がごろごろ見つかりますね。中国国内の愛新覚羅さんには、書法家が多いようです。

:年配の方はみなさん書画が得意です。現代中国を代表する書法家だった啓功(雍正帝の9世)も愛新覚羅氏ですよね。祖父も書の心得がありました。もしかすると満洲語もすこし知っていたかもしれません。私や両親は、満洲語はまったくできないんですが。

 

──書法家の啓功をはじめ、どうしても目立ってしまう愛新覚羅の姓を表に出さないようにしていたり、漢語姓である「金」を名乗ったりする一族も多いようです。映画『ラストエンペラー』の最後のシーンを挙げるまでもなく、往年は愛新覚羅の一族が迫害された例もあったのではないでしょうか?

2021.08.29(日)
文=安田 峰俊