仮に福全だった場合は興味深い。なぜなら兄である彼が皇位を継承せず、弟の玄燁が康熙帝として即位した主たる理由は、伝承によればふたつ。すなわち、福全の片目が不自由だったことと、幼少期に天然痘の罹患歴を持つ玄燁が感染症の免疫を獲得していたことだとされているのだ。

 眼病と天然痘による皇位継承劇から約360年後、中国発のコロナ禍のなかでアイ先生が眼科医院の院長を務めているのも、なにかの縁かもしれない。最後に眼科の視点からのコロナ対策についても尋ねてみた。

「目は粘膜ですからバリアが弱いんですね。目からの新型コロナウイルス感染を防ぐために、手洗いの徹底と、目の周囲を手で触らないことが重要です。私は目がかゆいときは、必ずティッシュを使って触るようにしています」

「ウイルスの数にもよりますが、飛沫が目に入ることによる感染は普通に起こり得ることです。状況によっては、マスクに加えて目をガードする予防策も意識してみてくださいね」

 目の病気と感染症は、ときとして皇位継承問題にすら影響をおよぼし、世界史を塗り替えることがある。読者各位もよく注意していただきたい。

2021.08.29(日)
文=安田 峰俊