「140分に収めるよう堅く言われていたんですが…」上映時間179分、映画『ドライブ・マイ・カー』が“長くなった理由”とは? から続く

 映画『ドライブ・マイ・カー』を見て呆然とした。作品の中に無数の物語が存在し、その一つ一つが驚くほどの強度を持つ。どうすればこれほど力強い映画が生まれるのか。原作は村上春樹の短編集『女のいない男たち』に収録された同名短編小説。妻を亡くした俳優の家福と運転手のみさきが車内で交わす会話劇をシンプルに描いた小説だ。映画ではこの短編を軸に、西島秀俊、三浦透子、岡田将生、霧島れいから豪華な出演陣が壮大なドラマを展開させる。

 監督は、近年国際映画祭で数々の映画賞を受賞、また『寝ても覚めても』(18)に続いてカンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品された本作で日本映画初の脚本賞(大江崇允との共同脚本)を受賞(他独立賞3賞を含む)し、世界的に大きな注目を集める濱口竜介。カンヌ参加前の濱口監督に、この驚くべき傑作の演出方法について、そしてカメラによって俳優の演技を撮る難しさについて、たっぷりとお話をうかがった。(全2回の2回め/前編を読む)

映画の原理原則とは、カメラを一番よく見えるところに置くこと

――やはり映画のカメラが映す演技は、そこで実際に起きている生の演技とはまた違うものなんですよね。

濱口 それはそうですね。実際にその場で真剣に演技をしている役者を前にすると、見ているこちらにも自然とある種の昂りが生まれてくるものです。それこそ「今、何かすごいことが起こったぞ」という気分になる。一方で、実際に撮ったものを見て「あれ、ちょっと思ったのと違うな」となるのもよくあること。カメラが見ているものと自分の目で見ているものをどれだけ近づけられるかが、現場での演技の判断基準としては重要だと思います。

――素人目には、リアルに演技を捉えるには、カメラを動かさずその場で起きていることをそのまま撮ればいいのかな、などと思ってしまいますが、カメラをどう動かすかが一番重要なんでしょうか。

2021.08.26(木)
文=月永理絵