役者自身も、何がOKで何がNGかはわからず撮られている

――この映画でまさにすごい「何か」が起こっているシーンは、高槻と家福が、車の中でお互い正面を向いて喋るシーンだと思います。あそこは、それぞれ車の中に置いたカメラに向かって喋っているわけですよね。

濱口 はい、ただ一応相手役にはカメラの脇にいてもらいました。岡田くんが話しているときは、西島さんにはカメラの横のトランクみたいなところにすごく無理な体勢でいていただき、岡田くんにもその逆をやってもらいました。ただ、それ以上に大事だったのは、一度お互いに見合いながら通しで演じてもらうことです。一度は通してみないと真正面に入っても演じるのが難しくなるし、通しのテイクでOKが出ない限り真正面に置くことはありません。

――普段も、切り返しの場面を撮る際には必ず通しでまず撮るんですか。

濱口 最近の作品ではほぼそうですね。まずテスト代わりに引きで撮り、次に切り返しで、という進め方が多いです。引きで撮った場面が思いがけず一番よく撮れていた、ということもあるので、よほど危険なシーンでない限りは兎に角テストはそこそこに、いきなり本番から始めることが多いです。現場でNGを出すことも滅多にない。実際通しの演技のどこかには必ずよいところがあります。舞台公演みたいな感じです。もちろんどの公演も良し悪しはあるでしょうけど、お客さんにとっては一回きりの演技なのだからすべての公演はOKでないといけない。あらゆるテイクで、とにかく一回一回一生懸命演じてもらい、ひたすら繰り返すうち気づいたらカメラの位置が変わっている、というのが役者さんの感じ方ではないかと思います。ただ通しの演技は役者さんにとって演じやすい部分もある半面、繰り返しがあまりに多いと本当に疲れるはずなので、どこでバランスを取るかは未だに難しい問題ですね。

――ところで本作の撮影監督である四宮秀俊さんは『きみの鳥はうたえる』(18)をはじめ三宅唱監督とよく組まれている方ですが、濱口さんからお願いされたんですか。

2021.08.26(木)
文=月永理絵