中野 セクハラもされるし。でも、それを否定してるんじゃなくて、そういう時代だったというのはあって。それで活きる人はそういう芸風で行けばいいし。でも、私たちは全力で拒否した。そういうことをあんまり売りにしたくなかった。

——あんなに誰かになりきるコントをやられているじゃないですか。それでも容姿のいじりとかってあるんですか?

中野 キャラクターになった時はなくて、バックヤードで「ブスやな」みたいな。

橋本 芸人さん同士での、っていう。

中野 なんで拒否したかというと、人によると思うんですけど、言ってくる人が私たちよりもネタの順位が低い……当時のライブってランキングが出てたんですけど、私たちより順位が低い人が負け惜しみで言ってきて、結果、こっちも面白くならないで共倒れしてスベる。

 そこをいじるんだったらせめてウケろよ、っていうことが多かったので。それは本当に全力で拒否しました。言い返してました。

——「ブス」って言えば勝ちというような風潮が、確かに少し前にはありましたよね。

中野 その芸風を否定してるわけではなくて。いろんな考え方の人がいるので。ただ、マウント取りたい、そこを言っておけばそれ以上言い返せないって分かっててのそのいじりは絶対嫌でした。

「え、今から化粧するの? え、なんでするん?」

——そういうことがあったから「何かになりきる」、全然自分とは違う、それこそ女でもない、時に人間でもないものになりきる方向に舵を切ったのですか?

中野 それがあったからこういう芸風になったわけではないです。最初から私たち、やってることはあまり変わってなくて。ただそういういじりを上手に返せなかったというのもあります。

——「容姿いじりを上手に返す=面白い」とされるなら、そこの土俵には乗りたくなかった。

中野 それはほんとそうですね。

——一般社会でもそうですね。「本気にするなよ」「マジに取るなよ」と言われたら……。

中野 そうそう。そうなったら何も言い返せないじゃないですか。

2021.08.19(木)
文=西澤千央
写真=鈴木七絵/文藝春秋