中野 芸人は面白いことを言うのが当たり前、面白いことを言わなきゃいけない職業なのに、でも、思いつかない。「自分が言うことなんて」って思っちゃう。生きる上でも自己肯定感が普通の人より低いのに、さらにお笑いとなると、できない自分たちをなかなか認めてあげられない。
——なるほど……。
中野 ネタに関しては本当に二人とも自分たちが面白いと思ってるので、そこを否定することはないんですけど。でも、私生活とおしゃべりは、もうちょっと自分をいたわってあげたほうがいいんじゃないかなって思うぐらい否定的です。
——テレビで活躍されている方でも「なぜ自分が番組に呼ばれるのか」が分からなくて不安で、だから数珠のブレスレットを付けたりするのではないか……と考察されている芸人さんもいらっしゃいました。
中野 でも……私も一回その時期はありましたね、数珠のブレスレット。企画で作ってもらったんですけど。「面白くなる」とか「自己肯定感を高める」とか、心を軽くする石ばっかり選んで。
寝る時も持ってましたね。
——どうでした?
中野 私、そういう暗示に自分をかけられないんですよ。ひねくれてるんです。催眠術もかからない。一回番組の収録でかかったふりしたことあるんですけど……。
橋本 あったね。
中野 私がかかりまくるんで、催眠術の人がどんどん楽しくなっていっちゃって。で、言い出せなくなっちゃって、最後、死んだおばあちゃんを出すって言い始めて。
橋本 私も本当にかかってると思ってました。催眠術師に「相方さん、ここつねってください。思いっきりつねっても彼女は痛くないんで」って言われたから「え、そうなん? すげえ」ってバカみたいにつねって。メッチャ痛かったんでしょう? あれ。
中野 痛かった。だって一個もかかってないから!
橋本 あざになっちゃって。
中野 最初、橋本さんがやって、一個もかからなくて、このままだと何にもならないと焦ったんですよ。一生懸命みんなが用意してくれて、私のためにこの人はかけてくれてるのにって。
2021.08.19(木)
文=西澤千央
写真=鈴木七絵/文藝春秋