朝ドラの「お約束」をあえて意識しない覚悟

 なぜ本作において説明が少ないように感じるかというと、そもそも朝ドラは必要以上に説明過多になる枠だから。「おしん」を書く上で橋田壽賀子は、1日中、忙しい主婦が画面に集中しなくても内容がわかるように、ラジオドラマのように「すべてをセリフで説明する」と語っていました。

 たしかに、主婦だけでなくすべての現代人にとって朝の時間は貴重。忙しい時間帯であるため、これまで朝ドラはある程度ナレーションやセリフを聞いていればドラマの内容がわかるような工夫がされてきました。それに、随所で意図的にテレビに目を向かせる演出も多くみられます。

 たとえばテンポの良い展開を入れる、ガツンと耳につくようなスピード感のある音楽を流すなどして、シーンの変化や見どころをわかりやすくするなどの努力です。ヒロインのオーバーアクションや多少の粗さ、ドタバタ劇も、その都度画面に食いつかせるためには有効でした。

 このようにテレビの前に座っていなくても、支度をしながらでもストーリーを把握できる、ということも朝ドラの重要事項であることは間違いありません。しかし、本作はあえてそれをしない。そこにも意気込みや信念を感じずにはいられません。

 映像美、音楽、説明の少なさは本作の確かな魅力です。しかしそれが仇となり、ストーリーがわかりづらいから「つまらない」と離脱してしまうという人もいるようです。忙しい朝の「ながら見」層にとっては、映像美や表情なんてちゃんと観ている余裕がなく、心地よく優しい音楽は耳の右から左へとすーっと流れていき、説明がセリフにないのでストーリーを理解できない、というわけです。

 「一瞬を見逃したらもったいない」という点では、たしかに本作は朝ドラには向かないのもしれません。しかし、そのせいで作品を批判するのは筋が違います。なぜならそれは、朝から慌ただしくなってしまうあなたの生活自体を見直したほうがいいからです。普段の行動パターンを見直し、有意義な朝時間の過ごし方を模索したほうがどう考えても建設的ですよね。

 余裕を持つことができれば、もっと毎朝が充実するはず。新しいモーニングルーティーンの中に集中して朝ドラをじっくり観る習慣を組み込んでみてください。「おかえりモネ」はあなたの朝の習慣を変える力を持っていると思います。

 もちろん、人には人の事情があります。朝はどうしても無理、という人は録画やオンデマンドで夜にじっくり鑑賞することをおすすめします。もちろん朝観てこそな部分もあるのですが、「夜モネ」も案外、精神衛生上有効だと思います。ヒーリング効果は絶大なので、疲れた夜に観たら気持ちよく眠れるかもしれません。ライフスタイルに合わせて視聴してほしいです。

2021.07.08(木)
文=綿貫大介