復興は淡々とした日常の積み重ねの上にある
ではなぜ「おかえりモネ」がこんなにもていねいで優しいつくりになっているのか。そこはやはり、東日本大震災から10年が経つ今、東北を描くことの意味を考えた上で随所に心を配った結果ではないでしょうか。震災の受け止め方は人それぞれです。いまだにPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しんでいるという人もたくさんいると思います。
大切な人を亡くされた方、被害を直接受けた方、直接的ではなくとも影響を受けた方……いろんな人がいろんな思いを描くのが災害です。東北にいなかった人は当事者ではないかといえばそんなことはないと思います。たとえば東京もあの日大きく揺れ、帰宅困難者とよばれる人がたくさんいました。みんな不安の中であの時を過ごしたのですから。
今でも緊急速報が鳴る時には、その音が、自分自身の記憶や経験、見たニュース映像などと結びついて緊張しますよね。アラートは危険を感じさせる音として「不協和音」と「音程を急激に変化させる」手法が使われるようです。そのため警告であることは即時に認知できますが、その音がトラウマになっているという人が多いという話も聞きます。
テレビでも瞬間的に「よくないこと」と感じさせたり「はっ!」っとさせて注目を集めたい場面で刺激的な不協和音を用いたBGMが流れたりすることがあります。それは効果的なワザのひとつだと思うのですが、本作はその演出すら感じない。きっと嫌な思いをする人や傷つく人がいないようにしたいという思いがあるからではないでしょうか。
あくまで優しい音楽や映像で、穏やかに包んでくれる。いつもどこかに朝の光を感じさせてくれているのです。その光はよい見通しの暗示であり、「希望」という言葉のイメージそのものです。
日本中に災害の傷を抱えている人はたくさんいます。それは東北だけでなく、さまざまな場所で。それにコロナ鬱と呼ばれるような人や、HSPの人(生まれつき過剰に刺激を受けやすく繊細な人)もたくさんいるでしょう。そんな人たちにも安心して観てもらえる作品、それが「おかえりモネ」なのです。
人生の起伏が大きい一代記モノの朝ドラに慣れすぎてしまうと盛り上がりに欠けると感じるかもしれません。でも、人生って平坦でいいと思うのです。淡々とした日常の出来事がていねいに描いてくれているのを観ると、復興はこういう日常の積み重ねなんだと考えさせられます。
どんな人生にも宝物はあり、それを見逃さずに拾い取れる人こそ豊かな人生を送れるのかな、なんてことを思ったりもします。そんなことを気づかせてくれる「おかえりモネ」はまだまだ始まったばかり。BSや再放送、配信など、朝ドラは視聴チャンスがたくさんあります。離脱した人、未視聴の人もぜひ見続けて、あなたの宝物を見つけてほしいです。
NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00〜11:15
土曜は1週間を振り返り
出演:清原果耶、内野聖陽、鈴木京香、蒔田彩珠、藤竜也、竹下景子、夏木マリ、坂口健太郎、浜野謙太、でんでん、西島秀俊、永瀬廉、恒松祐里、前田航基、高田彪我、浅野忠信ほか
綿貫大介
編集&ライター。TVウォッチャー。著書に『ボクたちのドラマシリーズ』がある。
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2021.07.08(木)
文=綿貫大介