「おかえりモネ」は朝ドラ史に残る名作になる予感

 ではここから「おかえりモネ」の魅力を深堀りしていきます。「カーネーション」や「あまちゃん」にもこれは今までの王道朝ドラとは何かが違う! と思わせる部分があったと感じた人は多いと思いますが(ですよね?)のですが、本作にもそれを感じます。つまり、それは「朝ドラ史に残る名作のひとつになる予感」です。

 まず注目すべきは、映像美。オープニングのタイトルバックにも言えることですが、光の使い方がとても美しい。物語の前半は登米や気仙沼の豊かな自然がたくさん見られるうえ、光の差し方やアングルが素晴らしい。天気が題材のドラマということもあり、天候の変化を表現するために光の強さや雰囲気はとても重要視されていると思います。時間や季節とともに移ろいゆく光を、風景画を通して追い求めた「光の画家」クロード・モネのことも意識しているかもしれません。

 特にロケのシーンではそれが発揮されています。太陽光の角度などはシーンに合わせて綿密に計算されているのでしょう。NHKの技術を見せつけられてしまう美しい自然の映像は、朝に観るととても清々しい気持ちになります。

 セットでの撮影シーンに差し込む光も、まるで自然光のようでロケのシーンとの落差もあまり感じません。これから東京編に移るとさらにセットでの撮影中心になりそうですが、映像へのこだわりは変わらないと思います。

 そして次に、音楽。過去朝ドラも素晴らしい音楽はたくさんあるのですが、本作を手掛けるのは高木正勝。『おおかみこどもの雨と雪』など細田守監督作品の音楽や、サントリーのCMソングなどで知っているという人も多いと思います。彼の音楽を聞いていると、透き通った水や薫るような風、雄大な大地の温かみなど、自然の情景が自ずと脳裏に立ち上がってくるんですよね。

 聞いているとまるで自分自身が里山里海の風景の中を軽やかに駆け回ってるみたいな気持ちになれる。作品に漂う優しい空気感は、この音楽でのおかげでより強固なものになっています。というか、音楽がドラマ全体を優しさの繭でしっかり包んでくれている。

 世の中にどんなに悲惨でつらいことが起きようとも、この繭の中にいれば大丈夫、という安心感があるんです。舞台となる東北はもちろん、私たちのギスギスした日常すらも優しく包んでくれるような気がします。癒やしと浄化の効果がハンパないです。

 そしてもうひとつ特徴的なのは、説明の少なさです。本作は言葉数が少なく、説明を極力省いているように感じます。あえて言葉を尽くすことなく、自然の美しさや清原果耶の無言の表情で何かを伝えようとしてくる。これは映像および俳優の力を信じていないとできない演出だと思います。

 例えば妹から「お姉ちゃんはあの津波を見てないもんね」と言われた時の清原果耶の表情(モネは2011年3月11日14時46分、ちょうど地元を離れ仙台にいました)。モネは一言も発しませんが、愕然としたような、失意に暮れる表情になり、目には涙が溜まり、粒がポロっと溢れます。

 そこに描かれているのは、妹が震災で受けた傷、モネのあの日その場に居なかったことへの疎外感、後ろめたさ、後悔……。もちろん一切言葉で説明はされないのでこれは想像です。想像させる余白がたっぷりある分、余計に印象に残る場面です。すべては視聴者の想像力に託されています。

2021.07.08(木)
文=綿貫大介