星野源「こじらせ三部作」の共通項
結婚のきっかけになった『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年・TBS)の津崎平匡役も、この天雫に通ずるモノがあった。潔癖症の一歩手前、生活信条にこだわりがある「プロの独身」だ。
インテリジェンスと経済力とそれなりのデリカシーを持つ津崎が、家事代行を完璧にこなす知的な女性・森山みくり(新垣結衣)と出会い、「契約結婚」から愛を育んでいく物語。初夜に逃げる臆病な一面はあったものの、思いやりといたわりはちゃんとある。なんつっても「上に立つでも、下手に出るでもなく、対等な関係で話し合いができる」男を見事に体現したのだ。
最新の「こじらせモノ」は、映画『引っ越し大名!』(2019年)の片桐春之介役。姫路藩の書庫番という地味で影の薄い男なのだが、本好きが高じて博識ではある。ただし、武芸の才は皆無。藩の中では皆から小馬鹿にされ、カタツムリと呼ばれている。
姫路藩では度重なる国替え(藩の引越し)で台所は火の車。しかも引越を仕切っていた名奉行が亡くなるという危機的状況。その代理を押し付けられるのが春之介だ。幼馴染で刀番の源右衛門(腕も立つし手も早い高橋一生)、亡くなった奉行の娘・於蘭(高畑充希)とともに、無理難題の超低予算国替えを成功させる。しかも出戻り&子持ちの於蘭と結ばれ、最終的には国家老まで昇進する。
ということで、星野源「こじらせ三部作」の共通項が揃った。「インテリで博識」だが「非社交的」で「不遇」、「経済力あり」だが「人、特に女性を決して下に見ない」、それゆえに「幸福な結末(童貞も無事卒業)」を迎える。未経験の男性に勇気と希望を与えつつ、心構えと矜持も叩き込んでくれるのでいいお手本だ。
今は容姿端麗だが力や圧や我が強い男性より、知性と配慮と敬意と柔らかさのある男性のほうが結果的に女性票を獲得する時代。そこに星野源はピタッとハマったのだ。
2021.06.21(月)
文=吉田 潮