いままで作ってきた作品の中で、最も“自分”が出ているように感じた

――ボタンがハマるかどうかは、タイミングも大事ですよね。

 お客さんにとってのタイミングがハマるかどうかも、重要ですよね。「情念」もそうですが、僕が映画を好きになった時代に誉め言葉として使われていた言葉が、いまはネガティブな意味に反転しているものもありますから。

 例えば「狂ったように好き」などは「狂う」がマイナスな表現として捉えられているからこそだと思いますが、僕自身はあまりネガティブなイメージはないんですよね。

――『The Beginning』の中にも「諸君、狂いたまえ」という吉田松陰の言葉が出てきますね。

 あれは『The Beginning』の中で、実は一番好きなセリフですね。剣心たちは、いわばテロリストなんですよね。

 でも、そうならないと世の中を変えられないから、あの道を選んだ。「諸君、狂いたまえ」は、そうした精神を象徴しているように感じます。そして、その正当性を自分に言い聞かせていないと、桂も剣心も実はやり切れなかったのではないかとすら思います。

 僕自身も、『龍馬伝』のときに実感しましたね。誰もやったことのないようなクリエイティブを推し進めるために、まさに狂ったように蛮勇を振り絞らなければならない。そうでなければ突破できないことが局面局面でたくさんありました。

 『るろうに剣心』も10年かけて乗り越えてきたものはその都度ものすごくたくさんあるから、やっぱり意思は内容に反映されていくんでしょうね。

 僕は「人間の思念は、死んだ後も遺るはずだ」と信じていて、撮影時の現場の熱量や想いは、やっぱり映像に映った空気の中に宿る、そういう考え方で作っています。

 フィクションといえど、役者の肉体を通すことで「いま、実在する人間」になってくる。そこに映し出され、刻まれたその感情もその人たちの実在感も、できるだけ大事にしたいという想いはすごく強いですね。

 先日久しぶりにIMAXで『The Beginning』を観たのですが、直したいところが出てきて困っちゃうと同時に(笑)、いままで作ってきた作品の中で、最も“自分”が出ているように感じたんです。

 一緒に走ってきた仲間たちのパワーも含めて、今現在自分のやりたいことが、一番反映されていた気がしますね。

大友啓史(おおとも・けいし)

1966年岩手県生まれ。90年にNHK入局。大河ドラマ『秀吉』(96年)・『龍馬伝』(2010年)、連続テレビ小説『ちゅらさん』(01年)、ドラマ『ハゲタカ』(07年)、ドラマスペシャル『白洲次郎』(09年)など数々の話題作を手掛け、2011年退局。監督作品に映画『るろうに剣心』シリーズ、『プラチナデータ』(13年)、『秘密 THE TOP SECRET』(16年)、『ミュージアム』(16年)、『3月のライオン』二部作(17年)、『億男』(18年)、『影裏』(20年)など。 

映画『るろうに剣心 最終章 The Beginning』

動乱の幕末。緋村剣心は、倒幕派・長州藩のリーダー桂小五郎のもと暗殺者として暗躍。血も涙もない最強の人斬り・緋村抜刀斎と恐れられていた。ある夜、緋村は助けた若い女・雪代巴に人斬りの現場を見られ、口封じのため側に置くことに。その後、幕府の追手から逃れるため巴とともに農村へと身を隠すが、そこで、人を斬ることの正義に迷い、本当の幸せを見出していく。 しかし、ある日突然、巴は姿を消してしまう。彼女の後を追う剣心だったが、そこには幕府の陰謀と、数々の罠が仕掛けられていた。満身創痍でたどり着いたその先での衝撃の結末とは――。

監督・脚本:大友啓史 
原作:和月伸宏『るろうに剣心−明治剣客浪漫譚-』(集英社ジャンプ コミックス刊)
出演:佐藤健 有村架純 高橋一生 北村一輝 江口洋介
主題歌:ONE OK ROCK“Broken Heart of Gold”
現在公開中
https://wwws.warnerbros.co.jp/rurouni-kenshin2020/

2021.06.13(日)
文=SYO
撮影=平松市聖