映画館で名作歌舞伎が観られる「月イチ歌舞伎」

 3度目の緊急事態宣言発令から1か月超、ようやく制限付きではありますが、東京や大阪で映画館が再開しました。これを待ち望んでいた映画ファン、エンタメファンも多いのではないでしょうか。

 「映画館に行くなら、めいっぱい“非日常”に浸りたい!」という方におすすめなのが、月替わりでシネマ歌舞伎を上映する「月イチ歌舞伎」。人気の歌舞伎作品を、故・中村勘三郎や片岡仁左衛門、坂東玉三郎をはじめとする歌舞伎界を代表する出演者の豪華競演で見ることができるのです。

 セリフが分からないからといって敬遠するのはもったいない。現代の言葉づかいで演じられる作品もたくさんありますし、豪華絢爛な衣装や独特の音楽、そして指先まで神経の行き届いた細やかな演技を見るだけでも楽しいはず。

 江戸時代より綿々と続いてきた歌舞伎は、もともと庶民の娯楽。ストレスフルな毎日をリセットしてくれる、歌舞伎の“エンタメパワー”を享受しましょう!

◆6月『鰯賣戀曳網』

 まず6月に上映される『鰯賣戀曳網(いわしうりこいのひきあみ)』は、シネマ歌舞伎今年の新作。実は劇作家として歌舞伎も手掛けていた三島由紀夫の作品です。2009年1月の「歌舞伎座さよなら公演」にて上演された舞台が、シネマ歌舞伎として蘇りました。

 物語の筋はシンプル。おちゃめでユーモラスな鰯の行商人、鰯賣猿源氏と、秘密を抱えた気品溢れる美しき遊女、蛍火が出会い、恋が成就するまでを描きます。このふたりを愛嬌たっぷりに演じるのは、中村勘三郎と坂東玉三郎。息の合った掛け合いが見どころです。

 緻密で時に難解とも評される三島由紀夫の小説のイメージとは打って変わって、この『鰯賣戀曳網』を包み込むのは大らかで和やかなムード。難しいことは考えなくてOK。主役ふたりのラブラブっぷりを愛でればよいのです。映画館を出る頃には最高にハッピーな気持ちになっていることでしょう。

シネマ歌舞伎『鰯賣戀曳網』

上映期間 2021年6月4日(金)~6月24日(木)
https://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/lineup/45/

◆7月『籠釣瓶花街酔醒』

 7月のシネマ歌舞伎『籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)』で見られるのは、中村勘三郎、坂東玉三郎、片岡仁左衛門の3名による豪華競演。ただこちらはハッピーなだけでは終わらない、最後にゾッとするようなオチが待っている作品です。

 舞台は吉原。中村勘三郎演じる上州佐野の絹商人・佐野次郎佐衛門は、坂東玉三郎演じる吉原一の花魁、八ツ橋の花魁道中に遭遇し、あまりの美しさに魂を奪われます。吉原に通い詰める佐野次郎佐衛門ですが、実は八ツ橋には、片岡仁左衛門演じる繁山栄之丞という浪人者の恋人がいて……。

 序盤の見どころは、何と言っても花魁道中の美しさ。八ツ橋の微笑をたたえた一瞥に、観ている私たちも心を射抜かれるはず!

 そんな華やかな場面からスタートする『籠釣瓶花街酔醒』ですが、物語のベースにあるのはかの有名な「妖刀村正」伝説。八ツ橋への恋心をくじかれた佐野次郎左衛門による、終盤のサスペンスな展開も見ものです。

シネマ歌舞伎『籠釣瓶花街酔醒』

上映期間 2021年7月23日(金)~7月29日(木)
https://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/lineup/20/

2021.06.11(金)
文=CREA編集部