さらに「寛ぐ空間と仕事する空間をくっきり分けられたら、気持ちの切り替えができてベストだな」と思っていたら、そんな所があった。兵庫県城崎温泉西村屋本館の横に、2019年に誕生したさんぽう西村屋本店だ。食事処とお土産屋の上の2階に、「さんぽうサロン」というテーブルと椅子が並んだフロアがある。1回1000円、1日2000円で利用でき、Wi-Fiと電源が完備され、スナックブッフェ(有料)もある。宿泊する西村屋本館が「寛ぎ棟」、こちらが「仕事棟」という、まさに理想形なのだ。
温泉地の新しい活用法「ワーケーション」は定着するだろうか
2020年、環境省の「国立・国定公園・温泉でのワーケーションの推進補助事業」として、全国からの応募数3倍の倍率を競って、現在30カ所強の温泉地が採択された。その中のひとつが福島駅から車で40分程の所にある土湯温泉だ。
10月27日~30日に開催された「福島県土湯温泉でワーケーションモニターツアー」の初日に私は基調講演を行い、「ワーケーションしたい場所・環境」の条件を左のように提案した。先述した過去の体験をもとにまとめたものだ。
●解放的な気持ちになれる眺めがいい場所
●リラックスできるいい香りがする
●健康的な気分になれる自然光が射す
●疲れすぎない温泉入浴ができる
●毎晩よく眠れる環境
●電源とWi-Fi完備
●コピー機等事務機器があるとベスト
●「仕事棟」と「寛ぎ棟」がある(オンとオフが分けられること)
参加者の9割が、東京都在住の出版社勤務、学生、福島市在住の公務員、占い師など女性だった。
国立公園の女沼でサップやカヤックを体験したりしながら、各自仕事をするという旅程。「電源とWi-Fiがあれば、温泉地でも仕事できるね。そこに美味しいスイーツがあれば最高」などと言い合う女性参加者の表情を見ていると、ワーケーションが定着するには、そもそも旅好きが多い女性たちに、居心地のいい空間を用意できるかどうかがポイントだと感じた。
脳科学者の茂木健一郎さんが以前、こう話していた。
「お風呂に入ると感覚遮断の状態になる。要するに、外からの刺激に注意を向けなくてもいい状態になると、脳のデフォルト・モード・ネットワークが活動し始めてメンテナンスをするんです。この時に、気になっていたものの処理できなかったことを整理できます」
リラックスできるから、仕事がはかどる。すなわち温泉とワーケーションは最良の組み合わせと言える。
『女将は見た 温泉旅館の表と裏』(文春文庫)
温泉旅館に行くと笑顔で出迎えてくれる女将たち。客とのトラブルや自然災害、コロナ騒動など苦労も多い中、接客のプロは日々、何を見ているのか――。
女将の一日密着取材、本音炸裂の匿名座談会、女将に学ぶ経費削減や好感度アップの所作の教えをはじめ、湯治場の恋、混浴の掟などなど、数々のとっておき蔵出しエピソードが満載。
山崎まゆみ著 文春文庫 715円。
週刊文春WOMAN vol.8 (創刊2周年記念号)
香取慎吾/天皇皇后ご夫妻 コロナ禍「沈黙」の理由/中野信子ほぼ別居婚対談
2020年12月21日 発売
本体500円+税
2021.05.07(金)
文=山崎まゆみ