では、現代的な「ワーケーション」に向いているのはどんな宿だろうか。私の経験をもとに、おすすめの宿を挙げてみたい。

温泉旅館で仕事をする最大のメリット

 私は長年、「ひとり温泉」を提唱してきた。温泉宿は複数人で泊まることが前提になっている宿も多いが、ひとりでも気兼ねなく寛げてワーケーションにもいいとなれば秋田県新玉川温泉。2018年のリニューアルでシングル50部屋を新設。白木を基調としたロビーは洒落ていて、まるで山岳リゾ―トホテルのよう。ただもともと湯治向けの温泉地ゆえ、《仕事重視》というより、《体調管理を目的としながらワーケーションもしたい》という人に適している。

 温泉旅館で仕事をする最大のメリットは籠れることである。外からの誘惑や刺激がない分、集中できる。それは内観する時間となるから、考えを掘り下げるにはいい。宮城県蔵王の中腹に佇む一軒宿の秘湯・峩々温泉では、暖炉があるこぢんまりとしたロビーに陣取れば、仕事がはかどる。目の前に広がる切り立つ岩肌を眺めるとストイックな気分にもなり、2~3日籠ったら、様々な案件が片付く。オーナー夫婦の適度な距離感も嬉しい。基本は放っておいてくれるが、人恋しい時にはコーヒーを淹れながら話し相手になってくれる。

 大分県湯布院温泉由布院玉の湯にあるライブラリーが好きだ。古い雑誌が並べられた重みのある空間は実に落ち着く。降り注ぐ光が、庭の緑を輝かせる。仕事に飽きて古い雑誌を広げたら、ふっとアイディアが浮かんでくる。コーヒーやクッキーのサービスが置かれてあるのも好ましい。

2021.05.07(金)
文=山崎まゆみ