重要なのは、この回復のエネルギーをいかに得るか、だ。以下、私自身の経験と、ペットロスを経験した人への取材をもとに、できるだけ具体的に書いてみたい。

〈お別れのセレモニー〉

「実はお別れの時間がとても大事なんです」と前出の阿部氏は語る。私も経験したことだが、ペットを亡くした直後でも、火葬の手配など事務的な作業は意外にできてしまうものだ。

「そうなんです。それで葬儀屋さんに『今日の夕方なら』と言われて、慌てて火葬してしまう方も多いのですが、お別れの時間が短すぎると後で引きずります。亡くなってからお別れのセレモニーまでの時間、心ゆくまで身体を撫でて、話しかけて感謝の気持ちを伝えることが大切です。バギーにのっけて散歩してもいい。きちんと保冷の処置をしておけば、慌てる必要はありません。私も、亡くなった犬と5日間、一緒にいたことがあります」(同前)

 できれば、ペットの生前に、葬儀社や葬儀場の目星をつけておくといいという。「縁起でもない」という声もあろうが、納得のいくお別れができれば、ペットロスからの回復も早くなる。

〈花を供える〉

 ミントを亡くしてから2日後、突然、美しい花が自宅に届けられた。贈り主は、散歩コースにあったワインショップのオーナー夫妻だった。ミントは愛犬家の2人の店に寄るのが大好きだったので、その死はメールで知らせていた。

愛犬の遺骨と届いた花
愛犬の遺骨と届いた花

 今回初めて分かったことだが、犬を亡くすと、その存在を記憶しているのは自分たち家族だけ、という錯覚に陥って、それが悲しみに拍車をかける。

 そんなときに「ミント君のこと忘れないよ」というメッセージとともに届けられた花には、本当に救われた。急にぽっかりと空いた部屋の空間を物理的に埋めてくれるのも有難かった。

 このとき以来「ペットを亡くした人には花を」と私は誓うようになった。

 

〈思い出の品〉

 お皿、首輪やリード、缶詰、オムツやオシッコシート、お気に入りの毛布、小さい頃遊んでいた玩具……ペットを亡くした飼い主は、これらの大量の遺品を前に途方に暮れる。捨てるべきか、残すべきなのか。5年前に愛犬を亡くした恵子さん(仮名・40代)は、こんな話を教えてくれた。

2021.03.24(水)
文=伊藤秀倫