京都駅に降り立って、市内のおいしいものを堪能。何度も行った京都おいしいものツアーもいいのですが、次の京都旅では、少し北へ足を延ばして丹後エリアへ。

 それは、京都の食文化の原点、おいしさの底力を知る旅になりました。

 まずは、豊かな自然環境から恵みを得る、【森の京都】をご紹介します。

» 第1回【森の京都】編
» 第2回【海の京都】編
» 第3回【お土産】編


黒豆・大納言小豆・栗など、この地ならではの美味が揃う【森の京都】

 「森の京都」は京都市から日本海に抜ける途中にある、本州のくびれた“ウエスト”みたいなエリア。

 亀岡市、南丹市、京丹波町、福知山市、綾部市、京都市右京区京北のエリアを指します。

 ここには豊かな森林や河川があり、農業も盛ん。古くからの里山ののどかな風景が広がっています。

 また、京丹波に多くある「丹波ブランド」の黒豆や大納言小豆、栗など、この地ならではの美味が揃うエリアでもあるのです。

 第1回はそんな「森の京都」を堪能できるスポットをご紹介!

古民家レストラン「厨房ゆるり」でジビエをもっと深く知る

 南丹市・美山町にある「厨房ゆるり」では、シカやイノシシなどのジビエを扱っています。地元で獲れるジビエ、というと聞こえはいいのですが、実は美山町では「獣害」の問題が深刻化。

「保護政策や山間地域の人口減少など、さまざまな要因が重なり、野生のシカやイノシシが増え、田畑を荒らす被害は甚大です。ハンターが仕留めたものを僕たちが買い取って処理し、近隣や都心部のレストランに卸すという活動を始めました」(店主・梅棹さん)

 ハンターから仕入れたシカやイノシシを販売するにはさまざまな設備が必要です。お店の隣には専用の工房「一網打尽」があり、ここで肉の処理が行われています。

「シカもイノシシも毎日のように持ち込まれます。いつ、誰が、どのように獲ったのかをロット管理。朝獲れたものは半日ほど冷水に浸して体温を下げ、夕方のゆうパックで東京に発送できるんです。つまり、獲れた翌日には東京などのレストランでお客様の前にお出しすることができるんですよ」(梅棹さん)

 ジビエという存在はずいぶんポピュラーになったけれど、いまだに「くさい」「かたい」といったイメージを持っている人も少なくないのも事実です。

「くさいのは新鮮じゃなかったり、最初に膀胱を取るときに失敗したものだと思います。少なくともここからお届けしているジビエは、フレッシュでやわらかく、くさみはありません。もっと本当においしいジビエを知ってほしいと思います」(梅棹さん)

 ほかのエリアと比べても、特に、美山のジビエはおいしい?

「はい! 美山の山林は雑木林。たくさんの木の実が散らばっていて、動物たちのおなかは恵まれています。また、急な傾斜が多く、小さなときからそこを走り回っていますからアスリートのように筋肉がついているんです」(梅棹さん)

 さて、「厨房ゆるり」に戻りましょう。

 古民家に一歩足を踏み入れると、なんだか懐かしい気分。大きないろりに鍋がかかり、長年育まれた食文化がそこにあります。

 この日いただいたのは、ある日のコース。いただくのはジビエや、近くでつくられている野菜、山の幸ですから、内容は季節によって変わります。

主役はイノシシの鍋。豚しゃぶのように楽しめます

 メインディッシュは、もちろんジビエです。この日は、イノシシを使った鍋料理。

 地元の地鶏でスープをとり、イノシシのロース肉をさっと火を通していただきます。肉自体に臭みがないので、スープはあっさり塩味で、肉のおいしさを際立てるのです。

「おいしいイノシシ肉は、豚肉と同じように調理してください。ここでも、『家庭でもジビエを食べてみて』という提案をできたらいいと思って。鍋はしゃぶしゃぶ、つくねはミートボールですから、パスタにアレンジできますよね。ジビエはレストランだけのものじゃないことを知ってほしい」(梅棹さん)

 鹿肉もイノシシも、冬のイメージがあるが、「イノシシは11月後半から、3月か4月くらいまでが脂を蓄えておいしいです。夏はいっさい脂がないし、春になるとオスがケンカをはじめて筋肉が張りすぎる。寒い時期がいちばんです。シカも狩猟期が冬なのでレストランでは冬の食べ物のイメージなのですが、実は夏がおいしい。駆除では1年中獲れますから、レストランでも『夏鹿』メニューがあったらぜひ試してみてほしいですね」と梅棹さん。

 「一網打尽」の肉はネット販売こそしていないものの、電話での申し込みで通販は可能。近隣なら道の駅でも買うことができます。

「ジビエというと特別なごちそうのように聞こえてしまいますが、もっと身近にとらえてもらえたらと思っています。特にシカやイノシシは、みなさんがたくさん食べてくれたら、私たちも猟師さんから高く買い取ることができる。そうすれば、猟をする人が増えて、田畑を守ることができます。現在はシカもイノシシも、増えすぎるほど増えているので、ぜひおうちでもジビエを楽しんでみてください」(梅棹さん)

美山の季節料理 ゆるり

所在地 京都府南丹市美山町盛郷佐野前15
電話番号 0771-76-0741
営業時間 昼12:00~14:00、夜18:00~
料金 ランチコース3,300円~、ディナーコース5,500円~、鹿肉鍋コース(昼夜)5,500円~、ぼたん鍋コース8,800円~(すべて税込) ※要予約
https://youluly.umesao.com/

一網打尽

電話番号 090-3713-8213
http://ichimoudajin.com/

2021.03.14(日)
文=CREA編集部
撮影=佐藤 亘