「年老いた未来でなら“運命の人”が何かわかってるんじゃないか」
――最後に収録されている「刺繍」では、「最期に思い出すのが運命の人なのではないか」ということが歌われてますが、なぜそのような発想が生まれてきたんでしょう?
究極の“ふたりの関係性”って、どうしても今の自分の年齢や価値観では手に入れられないものだなと思ってしまって。
となると、年老いた未来に希望を託したいというか。そのときには“運命の人”というのが何かわかってるんじゃないかっていう期待も込めてなんですけど。それで、老人の恋を書きたいと思ったんですね。
――「刺繍」以外の曲は全部恋愛の途中経過を描いてるし、満たされてないですよね。「リボン」も幸せな曲に思えますが、「隣り合わせ幸せと不幸せ きっと終わることはないの」と、幸せだけの恋愛がないことを描いています。
ああ、確かにそうですね。全然気にしてなかったですけど、「刺繍」だけはどこか完結感がありますもんね。言いきっちゃって。
そう考えると、私の曲って結婚式とかで流せる曲があまりなくて。何か“報われない”とか“終わってしまう”みたいな曲が多い。
人では満たされないっていう結論を自分で設けちゃってるんでしょうね。誰かに自分の核になるようなものは預けることはできないというか。その代償はいつか自分に返ってくるっていう気持ちが根底にあるんだと思うんですよね。
――それは、結局人と人は他人同士で、孤独なんだという感覚が強くあるということでしょうか?
「ゼリーの恋人」の歌詞を書いてる時に、俵万智さんの『サラダ記念日』の「愛された記憶はどこか透明でいつでも一人いつだって一人」という短歌を思い出して。
歌を説明するのは難しいところがあるんですけど……そこに誰かがいただけで、過ぎ去ってしまえば一人だっていうことに気付く、ということが歌われてる短歌だと思ってて。
当たり前のことかもしれないですけど、私にはいつもそういう感覚があるんですよね。
――「ゼリーの恋人」は別れる恋人同士の物語で、魔法が解けてしまった状態が歌われています。
そうですね。おとぎ話じゃないから完結しないんですよね。ドラマみたいに幸せなところで終わってほしいけど、終われないからそのまま日常が続いていくっていう。
――そういう意味でも、アルバムの最後を「刺繍」にしたのは大きいですよね。
そうですね。つまり、「死ぬことでしか完結しない」って書いちゃってるってことなんですけど。
なので、「刺繍」の主人公が、もしこの時に二十歳とかでさらに人生が長く続いていくとしたら、相手のことを“運命の人”って言えるかわからないけど。
でも、一生が終わる時の走馬灯みたいなものを書こうと思ったので、そこでなら”運命の人“って言えるかなと思ったんです。ここで完結って感じですね。
――最初にも少し話されていましたが、この後の作品の構想ももう具体的にあるということですか?
そうですね。今回はふたりの関係性を書きましたが、もうちょっと人数が増えていく感じですね。仲間のこととか良いなって。
もうそういう曲もあるので、そこに足したり引いたりしながら作っていけたらいいなって思ってます。
吉澤嘉代子(よしざわ・かよこ)
1990年、埼玉県川口市生まれ。ヤマハ主催「Music Revolution」でのグランプリ・オーディエンス賞のダブル受賞をきっかけに、2014年メジャーデビュー。バカリズム原作のドラマ「架空 OL 日記」の主題歌「月曜日戦争」を書き下ろす。2ndシングル「残ってる」がロングヒットする中、2018年11月7日に4thアルバム『女優姉妹』をリリース。2020年9月20日に配信ライヴ「通信・すなっく嘉代子」にて、ビクターエンタテインメントへの移籍を発表。2021年1月20日にテレビ東京ほかドラマ Paravi「おじさまと猫」オープニングテーマ「刺繍」を配信リリース。
吉澤嘉代子 OFFICIAL WEB SITE
https://yoshizawakayoko.com/
アルバム『赤星青星』
恋人をテーマにした10の物語で構成されるアルバム。初回限定盤では、「刺繍」のミュージックビデオ、5曲を披露したスタジオライヴ、密着ドキュメント映像が収められたDVDがついてくる。通常盤(CD) 3,000円、初回限定盤(CD+DVD) 5,500円。
〈収録曲〉
1. ルシファー
2. サービスエリア
3. グミ
4. ニュー香港
5. 鬼
6. ゼリーの恋人
7. リダイヤル
8. 流星
9. リボン
10. 刺繍
2021.03.12(金)
文=小松香里
撮影=鈴木七絵
スタイリスト=田中大資
ヘアメイク=新井裕梨