“恋人”をテーマにしたアルバム『赤星青星』
アルバムごとにテーマを掲げ、物語性の強い作品を生み出し続けてきた吉澤嘉代子さん。5thアルバム『赤星青星』のテーマは“恋人”。
生粋の読書家である吉澤さんが敬愛する歌人・穂村弘さんと作詞を共作した幻想的な「ルシファー」から始まる10篇の物語。
“恋人”がテーマといっても、自己投影型のラブソングとは違う、どこかの誰かと誰かの物語がファンタジックで遊び心溢れるポップス/歌謡曲となって描かれている。
新アルバムに込めた思い、楽曲制作の裏側について吉澤さんにお話を伺った。
「子供の頃、物語や自分じゃない誰かになるひとときに救われてました」
――5thアルバム『赤星青星』は“恋人”がテーマだそうですが、なぜそのようなテーマにしたんですか?
今まで4枚アルバムを出していて、毎回テーマを掲げてるんです。まず、最初のほうでは自分が音楽をやろうと思った初期衝動みたいなものを形にしたいと思って。それで、今まで個人に焦点を当てていたのが、もっと世界を広げていきたいなと思って、前作の『女優姉妹』では他者としての女性を書きました。
そして今回は恋人という、ふたりきりの世界を書こうと思ったんです。10代の頃に書いた「流星」とか「リボン」という曲を入れて。今後の作品ではもっと、仲間が増えていくような関係性の広がりを見せたいなとも思っています。
曲を書く時は、自分自身のことではなく、誰かになって書いていて。曲を聴いた方が主人公になれるような、年齢や性別を超えて楽しめる物語をお届けしたいと思っています。
そういう機能を持った音楽ができたらと思ってやってきています。
――自己投影型のミュージシャンもいますが、吉澤さんはそうではなく物語ありきという。
そうですね。自分の気持ちを書くこともあるんですけど、自分が主人公というよりは感情を抽出できればと思っています。
今の気持ちをアルバムにしたことは一切なくて。今の自分の気持ちもわからないですし。
それよりも、自分とは違う年齢の人や、遠い肩書きの人になりきったりして書いてます。子供の頃の変身願望の続きみたいなことを大人になってもやってるような感じですね。
――幼少期に本に没頭された時期があったそうですが、その影響も大きいのでしょうか?
子供の頃、物語や自分じゃない誰かになるひとときに救われてましたね。それで自ずとこうなったのかもしれないです。小説や短歌といった文章からの影響を受けている気がします。
2021.03.12(金)
文=小松香里
撮影=鈴木七絵
スタイリスト=田中大資
ヘアメイク=新井裕梨