新型コロナの流行に、東京オリンピックの延期……暗いニュースが続いた2020年を“日本一熱い男”松岡修造はどう受け止めたのか。
数々のアスリートに取材してきた松岡は、「ネガティブに見えるものにもポジティブが隠されている」と語る。『「弱さ」を「強さ」に変える ポジティブラーニング』を上梓した松岡に話を聞いた。(全3回の1回目/2回目に続く)
◆ ◆ ◆
トップアスリートはネガティブなもののとらえ方が優れている
ーーテニスの錦織圭さん、競泳の池江璃花子さん、フィギュアスケートの羽生結弦さんなど、各競技のトップの方々にお話を伺っておられます。優れたアスリートほど、意識や訓練をせずとも“ポジティブな思考法”を取っているような気もするのですが。
松岡 個人的な意見になりますが、基本的にはみなさんとそれほど変わらないと思います。でも、決定的に違うのは、挫折やネガティブなもののとらえ方ですね。トップに立つ人のほうがそのネガティブなものに対応する力が大きいんです。
周囲の期待やプレッシャーというものがより大きいからこそ、悩みや不安も比例して大きくなる。それらをどうすればポジティブにとらえることができるのか。その向き合い方、考え方が優れているように感じます。この点がトップアスリートになるためには必要なんだと思いますね。
今回の本で選手のみなさんが出してくれたポジティブな思考法は非常にシンプルであって、誰でも真似ようと思えばできるものだと思います。
ーー才能や努力といった部分だけで語られてしまいがちなトップアスリートたちも、“弱さ”という極めて人間的なものを抱えていることが伝わる内容にもなっていますね。
松岡 読む人によってそれぞれ捉え方は違うと思いますが、そこも感じてくれるとうれしいですね。「誰もが弱くて良いんだ」「誰だって挫折があっていいんだ」ということを伝えたい。それが読んでいる人にとってもひとつの安心感になると思うので。弱さは悪いことじゃないんですよね。弱いと気づくからこそ、その弱さをどうやったら前向きにしていけるかを考えられるわけです。
登場する7人は、誰一人として生まれついてのポジティブ・アスリートではありません。どちらかといえばネガティブで、常に前向きなんてこともありません。そこが一般の人たちにとって、最も共感できる部分ではないでしょうか。彼らもネガティブな部分があることが、この本のポジティブなポイントになっていると思います。
2021.01.28(木)
文=平田 裕介
写真=鈴木七絵/文藝春秋