羽生結弦には「奥底まで見透かされているような気がする」

ーーもうひとつ印象深かったのが、羽生結弦さんについてです。《彼にインタビューするときは、その1回1回が常に真剣勝負で、羽生さんに心の奥底まで見透かされているような気がして、生半可な気持ちでは臨めない》と書かれておられますが、これまで羽生さんにインタビューしてきたなかでヒリヒリした瞬間はありますか?

松岡 羽生さんとのインタビューでも、真剣勝負とはならないこともあります。それは、試合直前など話せる状態になんて到底なれないだろうなという時。逆に、真剣に勝負ができたと感じたのは、2位で終えた2019年3月の世界選手権後のインタビューですね。

 生放送で彼のインタビューを見ていて、僕も猛烈に話を聞きたくなったんです。羽生さんはすぐにカナダへ帰ると知っていたのですが、なんとか話を聞けないかと報道ステーションのスタッフにお願いしたら、羽生さんからOKをいただけて飛んでいきました。

 でも、そのインタビューでは、僕はほとんど口を開いてないんです。話をしているのは羽生さんだけ。おそらく、彼は自分の心の内を話したかったんだと思います。話すことで、自分の思いや考えを整理して、次に進もうとする瞬間だったのではないでしょうか。ずっと彼にインタビューしてきたからこそ、それを感じました。

 インタビューしてヒリヒリしたというか、怖いと感じるのは“羽生ワールド”に入り込めない時ですね。羽生さんが「こういうところを聞いてほしい。話したい」と思うところに対して、違う聞き方をしてしまったり、話が違う方向にいってしまったりすると、“羽生ワールド”は生まれないし、そもそも良い言葉も出てきません。

ーーそうなったとしても、松岡さんは“羽生ワールド”への入国をあきらめないように思えますが。

松岡 努力はしますが、やはり怖い時はあります。特に羽生さんが納得していない演技の後のインタビューなどは、とてもじゃないけど怖くて聞けない。

 その怖さというのは、「いまは言いたくない」「いまは話したくない」といった気持ちを感じ取るからなのですが、その中でも何とか羽生さんらしい言葉が聞きたいという思いはあります。ただ、選手に対してインタビューがマイナスになることだけは避けたいので無理はしません。

2021.01.28(木)
文=平田 裕介
写真=鈴木七絵/文藝春秋