西洋薬との組み合わせも解析
「最大の目的は治療内容と症状緩和、重症化抑制との関連性を明らかにすることです。
具体的には、例えば葛根湯(かっこんとう)や柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)などの漢方薬を使用しているか、あるいはアセトアミノフェンや総合感冒薬などの西洋薬を使用しているか、さらには治療開始からの症状の推移や重症化(酸素投与)の有無など、臨床の実態を詳しく収集します。
西洋薬、漢方薬、それらの組み合わせなど、さまざまな情報が必要となるため、広く臨床例を集めることにしました。
最終的にはどの漢方薬にどれくらいの治療効果があるのか、あるいはどの漢方薬とどの西洋薬を組み合わせればいいのかなど、統計解析を通じて明らかにしていきたいと考えています」
日本東洋医学会では軽症、中等症の患者を中心に1000症例を集める予定で、同学会では日本感染症学会、日本呼吸器学会、日本病院総合診療医学会、日本プライマリ・ケア連合学会などにも研究への協力を呼びかけている。高山医師が続ける。
「ただし、今回の投薬実態調査は、あくまでも関連因子を探る調査です。現時点で使える治療法を広く集めて解析するため、それでもかなりの時間がかかりますが、将来的には解析結果から既存の西洋薬、漢方薬を含めた有望な治療法をピックアップした上で、ランダム化比較試験(被験者を無作為にグループ分けして実施される比較試験)によって統計的有意差(統計的に意味のある差)を確認するという新たな作業が必要になってきます。
いずれにせよ、新型コロナウイルス感染症では軽症から先に進ませないことが最も重要で、調査の成果を全国の漢方医の治療の役に立つ形でフィードバックできればと考えています」
2と3のスタディーも含めて、今後の解析結果が待たれるところだ。
衝動的な買い占めには要注意
最後に漢方薬の買い占め騒動についても警鐘を鳴らしておきたい。
実は、2009年に新型インフルエンザ感染症が日本で流行した際、一部メディアで「麻黄湯(まおうとう)が効く」と報じられるや、市場から麻黄湯が姿を消すという出来事があった。今回の新型コロナウイルス感染症でも、一部の漢方薬がすでに品薄状態になりつつある。
このような衝動的な買い占めがエスカレートしていくと、医師ですら必要な漢方薬を入手できなくなる恐れが出てくる。その意味でも、漢方薬の入手や服用にあたっては、漢方薬局の薬剤師に面談で相談する、あるいは漢方医などから処方を受けるなど、冷静な対応が求められる。
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森省歩氏による「第三波に備える漢方薬リスト/『感染予防』と『重症化予防』の切り札に」は「文藝春秋」12月号および「文藝春秋digital」に掲載されています。
2020.11.22(日)
文=森 省歩