人によって効き方は違う
そして、長い歴史を持つ漢方専門医院として有名な修琴堂大塚医院の院長で横浜薬科大学特別招聘教授なども務める渡辺賢治医師は、このような漢方に特有の事情を前提に「同じ疾病に同じ漢方薬を処方しても、患者さんの証の違いによって、効き方が大きく変わってくるのです」と指摘する。
典型例を紹介しよう。
今年2月、中国国家衛生健康委員会は新型コロナウイルス感染症のために開発された漢方薬「清肺排毒湯(せいはいはいどくとう)」の著しい治療効果について、同薬を処方した全701症例における治癒率が実に94%以上にも達していた事実を公表した。
実は、第1波が日本を襲った際、渡辺医師も台湾にいる知人の医師らに依頼して生薬を調達し、修琴堂大塚医院で清肺排毒湯を独自に調合した上で、PCR検査で陽性と判定された患者らにこれを煎じ薬として投与している。
「とくに興味深かったのは証の違う夫婦の患者さんのケースです。中国での投与量は多すぎると判断したため、私はその3分の1の量を投与しましたが、実の証である夫が清肺排毒湯に敏感に反応して短期間で治癒したのに対し、虚の証である妻は清肺排毒湯に対する反応が鈍く、倦怠感も長く残りました。
その後、妻については、処方を藿香正気散(かっこうしょうきさん)に変えることで回復しましたが、完全に復調するまでの期間はやはり長引きました。実と虚は正反対の証にあたります。今回のケースでは、証の違いによって漢方薬の効き方や効き目が変わることを、あらためて実感させられました」(渡辺医師)
ちなみに、修琴堂大塚医院では、発熱などの症状がある患者に対しては感染拡大防止のためオンライン診療や電話診療などで対応するとともに、その後の症状悪化の徴候を見逃さぬよう脈拍や血中酸素飽和度を測定するパルスオキシメーターの貸し出しなども行ってきたという。
2020.11.22(日)
文=森 省歩