知るほどに使いたくなる 手間暇かけて生まれる器
![屋根瓦に漆喰壁、川のせせらぎ、その先にある山の緑。倉吉は観光スポットながらも、ほのぼのとした空気が漂う。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/2/9/-/img_29670a7c04a59e2751984654fec8785a148445.jpg)
「山陰の小京都」とも呼ばれるのが、鳥取県中部の倉吉。奈良時代には国庁が置かれ、南北朝時代は城下町として、江戸時代に城が廃止となった後は、商業の街として栄えた地域だ。
石橋が架かる玉川沿いに並ぶのは、白壁に赤瓦の土蔵と切妻造りの家並み。しっとりとした歴史情緒に包まれていると、思わず歩を緩めたくなる。
![小高い丘の上にある「福光焼」へ。窯元で器を選ぶのも、手仕事を訪ねる旅の醍醐味。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/6/d/-/img_6dcadea8fdc41c3f7586841e23101592210335.jpg)
中心部から10分ほど車を走らせると、雄大な大山(だいせん)を背景に、のどかな田園風景が広がる福光地区に到着する。この景色を見渡す丘の上にあるのが、「福光焼(ふくみつやき)」だ。窯主の河本賢治さん、慶さん親子が作陶にいそしんでいる。
![1980年に開窯した福光焼。今は親子で黙々とろくろに向かう。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/b/5/-/img_b5107050e0540f288bb8343a8e6618cc138781.jpg)
静かな工房に響くのは、土を練り、ろくろに打ち付けるパンパンというリズミカルな音と、コンコンと足でろくろを蹴る音。電動のろくろが主流の中、賢治さんが愛用しているのは、人の力で蹴って回転させる蹴ろくろだ。
「電動は急かされているような気がしてしまって。自分で動かすほうが回転速度も好きに調整できるし、人間のリズムにあってるんじゃないかな」と賢治さん。
![「子どもの頃、学校の敷地内に登り窯があって、美術の先生と一緒に焼き物を楽しんでいたんですよ」。穏やかな口調とはうらはらに、土を打つ姿が力強い。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/5/5/-/img_5529d3ed0988601ef1dee46970eef87c76605.jpg)
器を焼く窯は、電気や灯油ではなく薪で火を焚く登り窯だ。
賢治さん曰く、「自分の手で薪を入れ、炎の色や煙の出方を見ながら焼くことで、焼き物に血が通うように思うんです。電気や灯油窯も便利だけれど、スイッチひとつで作業を終えてしまうと、心が入らないような気がしてしまってね」。
![器はどれも、重厚感があるけれど薄手でとても使いやすい。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/e/f/-/img_ef8161c5dbf70b8066f4cd1b521b0002122661.jpg)
火の当たり方が違えば、仕上がりの色合いも変わる。完成した器はまさに、自然の賜物だ。
窯の中で薪の灰が器に降りかかり、土と反応して釉薬のようにキラキラと輝くのも、予測できない面白さ。そんな器が完成するまでのプロセスや手間さえも、楽しんでいるのが伝わってくる。
![賢治さん、慶さん作陶の器が並ぶ販売スペース。「これにどの料理を盛ろうかな」と、想像を膨らませてくれる。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/6/f/-/img_6f433bc5e92ee6fce954d38e0b25df56158523.jpg)
言葉少ない賢治さんが時おりつぶやくひと言が、じんわりと心を温かくする。「福光焼と分からなくてもいい、使う人の心が豊かになってくれれば」と話すけれど、こんな温もりある窯で生まれた器を使うからこそ、暮らしが豊かになるのだと思う。
福光焼
所在地 鳥取県倉吉市福光800-1
電話番号 0858-28-0605
営業時間 9:00~18:00(訪問の際は要電話連絡)
定休日 不定休
2020.11.24(火)
文=芹澤和美
撮影=山田真実