知るほどに使いたくなる 手間暇かけて生まれる器

「山陰の小京都」とも呼ばれるのが、鳥取県中部の倉吉。奈良時代には国庁が置かれ、南北朝時代は城下町として、江戸時代に城が廃止となった後は、商業の街として栄えた地域だ。
石橋が架かる玉川沿いに並ぶのは、白壁に赤瓦の土蔵と切妻造りの家並み。しっとりとした歴史情緒に包まれていると、思わず歩を緩めたくなる。

中心部から10分ほど車を走らせると、雄大な大山(だいせん)を背景に、のどかな田園風景が広がる福光地区に到着する。この景色を見渡す丘の上にあるのが、「福光焼(ふくみつやき)」だ。窯主の河本賢治さん、慶さん親子が作陶にいそしんでいる。

静かな工房に響くのは、土を練り、ろくろに打ち付けるパンパンというリズミカルな音と、コンコンと足でろくろを蹴る音。電動のろくろが主流の中、賢治さんが愛用しているのは、人の力で蹴って回転させる蹴ろくろだ。
「電動は急かされているような気がしてしまって。自分で動かすほうが回転速度も好きに調整できるし、人間のリズムにあってるんじゃないかな」と賢治さん。

器を焼く窯は、電気や灯油ではなく薪で火を焚く登り窯だ。
賢治さん曰く、「自分の手で薪を入れ、炎の色や煙の出方を見ながら焼くことで、焼き物に血が通うように思うんです。電気や灯油窯も便利だけれど、スイッチひとつで作業を終えてしまうと、心が入らないような気がしてしまってね」。

火の当たり方が違えば、仕上がりの色合いも変わる。完成した器はまさに、自然の賜物だ。
窯の中で薪の灰が器に降りかかり、土と反応して釉薬のようにキラキラと輝くのも、予測できない面白さ。そんな器が完成するまでのプロセスや手間さえも、楽しんでいるのが伝わってくる。

言葉少ない賢治さんが時おりつぶやくひと言が、じんわりと心を温かくする。「福光焼と分からなくてもいい、使う人の心が豊かになってくれれば」と話すけれど、こんな温もりある窯で生まれた器を使うからこそ、暮らしが豊かになるのだと思う。
福光焼
所在地 鳥取県倉吉市福光800-1
電話番号 0858-28-0605
営業時間 9:00~18:00(訪問の際は要電話連絡)
定休日 不定休
2020.11.24(火)
文=芹澤和美
撮影=山田真実