“喜劇役者”という響きが似合う

 その後、コントは“犬あるある”をちりばめながら展開していく。新しいおもちゃにこわごわ近づく犬。見知らぬ人物を威嚇する犬。部屋から出ようとする飼い主に体を擦り付ける犬――。

 テキストだけでは伝わりにくい動物的な動きを、岡部はときに緻密に、ときに大げさに演じきる。その身体表現の説得力。実際に目に映るのは犬のタイツを着ている人間なのだが、その一挙手一投足はもう犬にしか見えない。

 また、この「犬」のコントには、明確なボケが一切含まれていない。岡部はあくまで、犬を演じているだけだ。

 振り返ってみると、岡部は芸人の中でもワードやセンスでボケるタイプではない。バラエティ番組でも、食レポをすると目を見開いて「んー!」と連呼し美味しさを表現、大食いや再現ドラマで見せるのも一生懸命さや額から流れる汗だ。かといって、面白いことをしないことが面白い、いわゆる「スベリ芸」でもない。

 芸人たちを中心に作り上げる現在のトーク中心のバラエティ番組は、しばしば“戦場”に例えられる。そんな中、ひねったボケや抉るようなツッコミなど、他者と斬り合う鋭い言葉を武器として携えない岡部は、やはり見る者に「ホッとする」笑いを提供しているのかもしれない。

 いずれにせよ、言葉ではなく身体に基づく岡部の笑いはもともと役者的。そんな彼がドラマで即戦力として起用されるのは当然とも言えよう。今ではあまり聞かれない肩書きに“喜劇役者”がある。彼には、その響きが似合うようにも思う。

 コント師・ハナコの岡部大。ドラマ出演でさらに広く顔と名前を世間に知られるようになった彼だが、その活躍のベースにはコントがある。もともと多彩なコントを披露することで定評のあるハナコだが、今回の朝ドラではシリアスな演技も見せた。確かな表現力とその幅の広さを見せた岡部は、今後さらに活躍の幅を広げるのではないだろうか。

2020.11.09(月)
文=飲用 てれび