「過去最高って言ってもいいのかもしれないですね。数年前なら誰が出ても優勝していたんじゃないか、というレベルの高さでした」

 大会の締めに審査員のダウンタウン松本人志がこう語るほど、2019年のM-1は沸いた。では何がこの“神回”を作ったのか。出場した漫才師たちのインタビューから、その答えに迫っていく。

 衝撃の「ノリツッコまないボケ」で“まさかの大逆転劇”を演じたぺこぱ。10番目まで出番を待ち続けた彼らは、決勝当日何を感じていたのだろうか?


「インディアンスの後はやりにくいな……」

――M-1決勝、ラスト出番の10番目でした。待つの、疲れませんでしたか?

松陰寺 正直、めちゃくちゃ疲れました。

 本番前、僕らの師匠でもある事務所の先輩のTAIGAさんに呼び出されて、「賞レースで失敗しないためのノウハウを教える飲み会」を開催してもらったんです。

 その席で、2つのことを言われて。1つは「爪痕をちょっとでも残せればいいやみたいな弱気な思考は捨てろ」と。絶対、優勝するつもりで行けと言われました。

 もう1つは「何番目でも前向きに行けるよう常に準備をしとけ」と。なので、何番目がいいとか考えずに、来たところで行くぞと思ってました。

 クジが引かれるたび、相方に「よし、次、行くぞ」って声をかけて、よし来い、よし来いって待ってたんです。結局、それをトータルで9回やったんで……。

――最後、インディアンスとぺこぱの2組が残りましたけど、タイプ的にインディアンスの後がいいと言う人もいるし、やりにくいという人もいますが。

松陰寺 僕はやりにくいなと思ってましたね。めちゃくちゃウケているのを何度も見てるので。だから、先に来いって思ってました。

――9組目のときは、ラグビー日本代表の稲垣(啓太)選手が笑神籤(えみくじ)を引いていたのですが、名前が書いてある棒を落としかけて。テレビだと「ンス」と最後の2文字が見えていました。あれはモニターでもわかったのですか?

松陰寺 いや、僕には、その「ンス」が「こぱ」に見えて。もう立ち上がって、いく準備もしていましたから。そうしたら、あれっ……と。ラストかと、力が抜けちゃいました。

2020.06.21(日)
文=中村 計
写真=山元茂樹/文藝春秋