音楽とともに流してはいけないセリフ

 チーフ演出・脚本を担当する吉田照幸氏は、休止期間の間に戦争の描写については改めて手を入れて書き直したとインタビューで語る。緊急事態による放送の中断、お茶の間に愛された出演者の死という相次ぐ衝撃は、作り手のモチベーションに火をつけ、揺れ動く社会の中で訴えるべきテーマを呼び起こしたのだろう。

 脚本がかつてなく「戦争」の領域に踏み込めるのは、窪田正孝と二階堂ふみという2人の主演俳優に対する絶大な信頼があってこそのことだろう。

 第17週『歌の力』第85回で、戦地に赴き慰問することの是非をめぐってぶつかりあう2人の長回しの息詰まるような芝居には、劇伴の音楽がまったくかかっていない。『歌の力』をタイトルに冠し、音楽をテーマにしているからこそ、音楽とともに流してはいけないセリフがあり、静寂の中で言葉に魂を乗せることのできる俳優が必要になる。

 

主演俳優2人の魅力

 窪田正孝という俳優の中には、繊細で非男性的な少年の顔と、揺るがない強さを求める男性的な青年の顔が混在し、相克している。『アンナチュラル』で演じた六郎、『Diner』で演じた殺し屋スキン、直前に公開され圧倒的な評判を呼んだ主演映画『初恋』で演じたボクサー葛城レオにも、繊細さと強さの間を揺れ動く魅力がある。それは『風立ちぬ』で描かれる堀越二郎、その声優に起用された庵野秀明が作り出した『エヴァンゲリオン』の碇シンジをどこか思わせる。

 二階堂ふみは16歳にして『ヒミズ』で第68回ヴェネツィア国際映画祭最優秀新人賞にあたるマルチェロ・マストロヤンニ賞を共演の染谷将太とともに日本人初受賞して以降、自分の強い意志で俳優としてのキャリアを築いてきた。岡崎京子の伝説的漫画を映画化した『リバーズ・エッジ』では自ら企画段階から意欲的に動き、監督が決まらず制作が停滞する中、釜山映画祭で会った行定勲監督に作品の監督を直接交渉するという、半ばプロデューサー的な働きを見せている。

 圧倒的な演技力で数多あるオファーの中、『エール』を出演作に選んだのも、スケジュールを犠牲にして出演するに値する作品になるという判断があったのだろう。

二階堂ふみ ©時事通信社

2020.10.17(土)
文=CDB