主人公・古山裕一のモデル、古関裕而氏の生家をモデルにした呉服屋「喜多一」のセットの前で。左から佐久本宝、窪田正孝、唐沢寿明、菊池桃子 ©福島民報/共同通信イメージズ

あえて過酷なインパール作戦に踏み込む

『風立ちぬ』は、戦争の凄惨な描写にあえて踏み込まなかった。堀越二郎の苦悩と悔恨は、航空兵たちの幻影の前に自分の罪を思い知り崩れ落ちる夢の中の描写として象徴的に描かれる。だが、『エール』はあえて戦場そのもの、最も過酷とされたインパール作戦に踏み込む。

 

「元来日本人は草食である、然るに南方の草木は全て即ち之食料なのである」「イギリス軍は弱い。必ず撤退する。補給について心配することは誤りである」NHKの戦争証言アーカイブスで今も配信されている、NHKスペシャル『ドキュメント太平洋戦争 第4集 責任なき戦場 ~ビルマ・インパール~』には今も牟田口廉也司令官の発言の証言が残る。

 ジャングルの草木を食べ、地元の農家から略奪した牛を「弁当」代わりに連れてジャングルの山を越える無謀な計画は無残に失敗し、兵士たちの間では飢餓と疫病が蔓延した。

 あまりの悲惨さに、「軍は兵隊の骨までしゃぶる鬼畜と化しつつあり、余の身をもって矯正せんとす」と部下を集めて訓示し、その言葉通り「各上司の統帥が、あたかも鬼畜のごときものなり」「司令部の最高首脳者の心理状態については、すみやかに医学的断定をくだすべき時機なり(精神鑑定せよ)」と激烈な司令部批判の電報を叩きつけ独断撤退して兵士の命を救った佐藤中将は、作戦後に更迭され、逆に本人が精神鑑定を受けさせられた。

 史実では古関裕而はミャンマーを慰問した経験はあるが、インパール作戦そのものに従軍はしていない。第18週『戦場の歌』は『エール』のスタッフが、美しい音楽がもたらした責任を問うためにあえて“地獄”に踏み込んだ創作のシークエンスとなる。

アジア太平洋戦争下の古関裕而(中央の頭巾を被った女性の右)。古関正裕氏提供。

2020.10.17(土)
文=CDB