最晩年の大作、大乗寺の障壁画を体感!

 今回の展覧会には、そんな応挙の画業の集大成ともいえる最晩年の大作、大乗寺の障壁画が展示される。

 若き日の応挙に学資を援助をした兵庫県・大乗寺の住職への恩返しとして、客殿新築に際し、応挙は弟子たちと共に最晩年の8年を費やして、165面の障壁画を完成させた。この頃、絵の中の空間と建築物内の空間を一体化させ、眼前にあるのが襖絵ではなく、自然の風景そのものと思えるような立体的な空間表現を試みていた応挙らしく、《松に孔雀図》は和蝋燭の光の下で、絵の背景である金箔貼りの地と足下の畳が溶け合って一体となり、金色の空間に松と孔雀だけが浮かび上がるようにさえ見えた。

重要文化財 円山応挙《松に孔雀図襖)》十六面(部分)
寛政7年(1795) 大乗寺蔵
※大乗寺客殿「孔雀の間」の襖絵です

 会場ではこの客殿二間分、襖24面をガラスケースなしの障壁画空間として再現。直角をなす二つの壁面間で人物が視線を交わす「郭子儀の間」や、実物大の松が現実の庭へと目を誘う「孔雀の間」を体感することができる。

重要文化財 円山応挙《郭子儀図襖》八面(部分)
天明7年(1787) 大乗寺蔵
※大乗寺客殿「郭子儀の間」の襖絵です

 眼病を患い、もはや十全に「リアル」を「見る」ことのできなかった晩年の応挙。だが金地に浮かび上がる墨一色の老松と孔雀に対する時、まさに彼が目指していた境地そのもの、とらえ切った形を透かして、気韻が現れてくるさまを見る思いがする。

開館20周年記念 円山応挙展──江戸時代絵画 真の実力者──
会場 愛知県美術館(愛知芸術文化センター10階)
会期 3月1日~4月14日
休館日 月曜日
開館時間 10:00~18:00(入館は閉館30分前まで)
料金 一般1300円
問い合わせ先 052-971-5511(代)

橋本麻里

橋本麻里(はしもと まり)
日本美術を主な領域とするライター、エディター。明治学院大学非常勤講師(日本美術史)。近著に幻冬舎新書『日本の国宝100』。共著に『恋する春画』(とんぼの本、新潮社)。

Column

橋本麻里の「この美術展を見逃すな!」

古今東西の仏像、茶道具から、油絵、写真、マンガまで。ライターの橋本麻里さんが女子的目線で選んだ必見の美術展を愛情いっぱいで紹介します。 「なるほど、そういうことだったのか!」「面白い!」と行きたくなること請け合いです。

2013.03.09(土)