先日ご紹介した白隠とごく近い文脈で親しまれている江戸時代の僧といえば円空(1632~1695)だろう。その円空の展覧会、「飛驒の円空─千光寺とその周辺の足跡─」が東京国立博物館で始まっている。

三十三観音立像(部分) 江戸時代・17世紀 総高61.0~82.0cm/千光寺蔵

 鉈で断ち割った丸太から、鑿跡も荒々しく彫り出された仏。2メートルを超える「立木」サイズのものもあれば、古い建築材の木っ端をリサイクルした小さなものもある。手に結ぶ印や衣文、持物など、仏像は本来、「儀軌」と呼ばれる厳密なフォーマットが定められているが、円空の彫る像はそうした約束事にとらわれることはない。

左:両面宿儺坐像 江戸時代・17世紀 総高86.9cm/千光寺蔵
中:宇賀神像 江戸時代・17世紀 総高19.8cm/千光寺蔵
右:千手観音菩薩立像 江戸時代・17世紀 総高114.3cm/清峰寺蔵

 中には鑿の数が数えられるほど手数の少ない、ほとんど抽象彫刻のような像もあるが、それでもちゃんと仏に見えるのだから不思議なものだ。展覧会場に、大きさも姿態もさまざまな、しかしいずれも温顔にほのかな微笑を漂わせる100体もの仏たちが林立するさまは、まるで小さな森のようにも見える。

左:賓頭盧尊者坐像 江戸時代・17世紀 総高47.4cm/千光寺蔵
右:如意輪観音菩薩坐像 江戸時代・17世紀 総高74.8cm/東山白山神社蔵
左:龍頭観音菩薩立像 江戸時代・17世紀 総高158.3cm/清峰寺蔵
中:聖観音菩薩立像 江戸時代・17世紀 総高156.8cm/清峰寺蔵
右:愛染明王坐像 江戸時代・17世紀 総高67.4cm/霊泉寺蔵

 飛鳥時代に大陸からこの国へ仏教がもたらされたとき、そこには光り輝く金銅製の像が伴われていた。教えがゆっくりと広がり、浸透していく過程で、像の素材は木へと変わっていく。仏教以前からこの列島に住まう人々と共にあった深く豊かな山、そして聳え立つ巨樹がまとう聖性が、新しい信仰の形を刻む対象として、ごく自然に木を選ばせたのだろう。円空の仏が印象的なのは、そこに霊なるものを感じながら彫っていた始まりの時代の仏師たちと同じ、木という素材への畏敬の念、そして木の木らしさを最大限生かそうという情熱が見事に結実しているからだ。鎌倉時代に隆盛した慶派以降、仏像彫刻は再び大きな発展を迎えることなく沈滞していった。しかし円空はその類を絶したオリジナリティによって、近世以降の仏像彫刻の流れの中にただひとり屹立している。

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2013.02.09(土)