大ヒットの理由2:国境を超え共感を呼ぶテーマ
かつて『パラサイト』を「韓国人だけが真に理解できる映画」と語ったポン・ジュノ監督は、それゆえ、海外での評価を不安視していた。しかしながら、いざ蓋をあけてみたら、イギリスや香港など多くの地域から「自分の国の話だと思った」と訴える反響が届いたのだという。
監督ですら驚いた顛末だが、映画のあらすじを紐解いていけば納得がいくかもしれない。貧しい一家があの手この手を使ってひとつのIT社長邸で働こうとすることから始まる本作には、れっきとした「悪役」は存在しない。家政婦や運転手といった職業をとおして貧困家庭と富裕層家庭が交差するうちに、だんだんと「経済格差」の影があぶりだされていき、ものごとが暴走していく構造なのだ。
近年、アメリカをふくめた世界中で、富の不平等は大きな問題として取り沙汰されている。フランスやレバノンなど、経済問題にまつわる大規模な反政府デモの報道も珍しくなくなった。そんな状況だからこそ、恐ろしき格差構造をあざやかに描いた韓国映画が国境を超えて共鳴を呼んだのではなかろうか。
要するに、『パラサイト』には、オリジナリティあるローカル性と、世界中で共感されるユニバーサルな側面が備わっている。ゴールデングローブ賞にて、ポン・ジュノ監督は、アメリカにおける『パラサイト』人気に関する洞察を示した。「この映画は、豊かさと貧しさの物語です。資本主義のハートと言えるアメリカで爆発的に受け入れられたことは、自然ななりゆきだったのかもしれませんね」。
日本版は「カステラ」ではなく「タピオカ」か
アメリカでは早速TVドラマ化が決定した『パラサイト』。ドラマ版では韓国を舞台に進行するようだが、ローカルな世界観とユニバーサルなテーマを併せ持つフォーマットを活かせば、さまざまな国を舞台にしたリメイクも面白くなりそうだ。日本の場合、「台湾カステラ」を「タピオカ」に変更する案はいかがだろうか。
結局のところ、『パラサイト』の最大の魅力は、シンプルに面白い映画であることだ。貧困層と富裕層の家を舞台に、コメディ、サスペンス、ミステリ、そしてホラーやアクションなど、ジャンルの境界をものともせずに進むジェットコースター展開は1秒たりとも目が離せない仕上がりになっている。映画館に足を運びさえすれば、世界を魅了した理由がすぐにわかるはずだ。
※こちらの記事は、2020年2月10日(月)に公開されたものです。
記事提供:文春オンライン
2020.02.14(金)
文=辰巳JUNK