一之輔さんの一番好きな落語の登場人物は?
お前が言うな! のつっこみを覚悟で書く。
不倫だなんだと人様の生活をほじくりかえし、けしからんとみんなで袋叩きにする。
何だか不寛容で息がつまる時代だ。
そんな時代に、文藝春秋は、笑いと寛容に満ちた日本の伝統芸能「落語」をお届けすることに。
オフィス街=紀尾井町にある文藝春秋で、「文春落語」と題し、人気落語家による独演会が定期的に開かれる運びとなった。
2020年1月27日(月)に行われた一回目の独演会は、当代きっての人気落語家・春風亭一之輔師匠。
2012年に21人抜きの抜擢で真打昇進。年間900席もの高座をこなし、チケットは即完売である。
師匠にさっそくお話を伺いに。
一之輔さん。たくさんの噺の中でも、とりわけ愛着のあるキャラクターはありますか?
「一番好きなのは普通の職人ですね。いわゆる熊さん、八っつぁん。『ちはやふる』とか『子ほめ』に出てくるような人たち。
欲望のまま、何でもしちゃう。飲みたいときに酒を飲んで、働きたくないと思えば、実行しようとするところが好きですねえ」
落語の古典は江戸、明治、昭和初期を描いているので、近所付き合いや夫婦の関係も、現代とはまったく違う。
うっかりものや与太郎という名の”人生積んでるような人”が、落語の主要登場人物だ。
「同じ町内だと家族構成から何からみんな知っている。当時はそういうコミニティだったんでしょう。
今の人が飛び込んだとしたら、関係が近すぎて発狂してしまうでしょうね(笑)。
でも、風変りな人や、今でいう障がい者もはじかないし、変な目でみない。
落語にはつまはじきにされる人が出てこないんですね。
ご隠居さんに象徴されるように、こういうことならあの人に聞くというような人が、身近にいるのはいいですよね。
そういう時代に、心地よさやうらやましさは感じます」
ストレスシティ大都会・東京で、隣に住む人の名前も知らず、SNSだけの付き合いに疲れを覚え、人間関係に悩む人にとっては、寄席に足を運ぶことが、トリップ体験になるはずだ。
「地方に行くと足湯ってあるでしょ。そんな感じに、都会の寄席をつかってほしいですね。気軽な感じに」
ところで、会場となる文春落語の会場は「文藝春秋・西館ホール」といって、収容数は約200人。
「ここは、ホールとは名ばかりで、大きな会議室と言ったほうがいいんですよ。文春の人はよくも詰め込めるだけ詰め込んだもんだ」
しかし、いったん一之輔さんの噺が始まると、みんなが笑いの渦に引き込まれて会場は大うねり。
「狭くて膝をつきあわせるような場所のほうが、みなさんよく笑うんですよ。なんといっても、一番大声で笑ってくれるのは、避難所ですから」
せせこましい空間に、都会の足湯に浸る気持ちで、落語を聞きにぜひお越しを。
2020.02.04(火)
文=CREA WEB編集部