日本の激動が刻まれた
名建築の秘話に心を寄せる

 門井さんは現在、江戸が東京という近代都市へと変貌していく物語に取り組んでいます。日本橋にも日本の近代化の象徴となる名建築が点在。いくつかご案内いただきました。

 日本橋にヒストリカルな本店を構える老舗百貨店「三越」は江戸時代、呉服店「越後屋」として創業。反物を即座に着物に仕立てて渡すイージーオーダーを提供するなど、画期的な販売スタイルをいくつも発案。好評を博し、大繁盛したのでした。

「明治以降も日本橋に対する三越の貢献度はすごいかもしれませんね。アジア初の地下鉄となる銀座線には『三越前』という駅がありますが、宣伝として駅に商業施設の名前が付けられたのは初めてのケースでしょう」

 並ぶ三井本館も激動の時代に誕生した名建築。関東大震災の後、“この地震の2倍の震度であっても壊れない建物”を使命として建設されました。アメリカ風の新古典主義を設計に取り入れた建物は列柱に囲まれ、壮麗で品格にあふれています。

 隣り合う日本銀行本店が建つのは江戸時代の金座跡地。

 「日本銀行は1896年、辰野金吾の設計により建てられました。更地にしたとき、金座のものでしょうか、地中から金の屑が大量にザクザク掘り出されたそうです」と門井さんが驚くべきエピソードを披露。

 脇を流れるのは高度成長時代、高速道路に覆われた日本橋川。クルーズで見上げた常磐橋(【東京の昔】日本橋はなぜ一流なのか①で紹介)が架かっています。

かつてCOREDOの地で
初めて洋装の女性が接客に

 日本橋めぐりの終わりには、2019年9月にオープンし、大きな話題を集める「COREDO室町テラス」へ。

 「このそばには江戸時代、『白木屋』という大百貨店があったんですよね。接客をする女性が初めて和装から洋装になったともいわれたのが白木屋でした」と、門井さんが移りゆく日本橋の風景を見渡します。

「『日本はまだ普請中』とは森鷗外の言葉ですが、ここでは土地も人間もあらゆるものが普請中だと僕は考えます。自分は絶えず変わっているという意識があると、人は普請中だと意識する。

 東京って人が集まり、仕事が集まりますから、つねに新しいことを試みますよね。毎日、初めて出会う人も多く、まさに我々の人間関係そのものが普請中、自分自身も普請中だと思うんです。

 すべての人が集まる日本橋は、今まで通り、そしてますます“ 普請”していくのでしょう」

江戸風御菓子司 日本橋 長門

所在地 東京都中央区日本橋3-1-3
電話番号 03-3271-8662
営業時間 10:00~18:00
定休日 日曜・祝日
http://nagato.ne.jp/


千疋屋総本店 日本橋本店
https://www.sembikiya.co.jp/shop-list/main-store


日本橋三越本店
https://www.mitsukoshi.mistore.jp/nihombashi.html/


COREDO室町テラス
https://mitsui-shopping-park.com/urban/muromachi/

門井慶喜(かどい よしのぶ)

1971年、群馬県生まれ。同志社大学文学部卒業。2003年「キッドナッパーズ」でオール讀物推理小説新人賞を受賞しデビュー。16年『家康、江戸を建てる』で直木賞候補に。16年『マジカル・ヒストリー・ツアー』で日本推理作家協会賞、18年『銀河鉄道の父』で直木賞受賞。20年2月、建築家・辰野金吾をモデルにした小説『東京、はじまる』を刊行予定。
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2020.01.04(土)
文=上保雅美
撮影=佐藤 亘