暮れから新春にかけては、歌舞伎公演が最も盛んなシーズン。銀座の歌舞伎座でもバラエティ豊かな演目が目白押しです。
CREA WEBの東京特集、歌舞伎企画第3回では、引き続き若手実力派の女方として知られる中村梅枝さんにインタビュー。
歌舞伎座「十二月大歌舞伎」で重要な役を務める梅枝さんに、演目の見どころを解説していただきました。歌舞伎初心者の方も、ツウの方も必読です!
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» 第1回「歌舞伎座はじめてガイド」
» 第2回「中村梅枝さんインタビュー 前篇」
現実ではとてもできないことを
代わりにやってしまう爽快感
世話物というジャンルの『髪結新三』では、現代に置き換えても共感できる娘の恋心を表現していた梅枝さん。「十二月大歌舞伎」の『神霊矢口渡』で演じるお舟もまた恋に一途な女性です。
「会った瞬間に好きになってしまった人のために、お舟はあり得ないような大胆な行動に出ます。現実の常識ではとてもできないことを、代わりにやってしまう姿に爽快感を覚える。この作品にはそういう面白さがあると思います」
一体、何が起こるのでしょうか。
「お舟の父親は舟の渡し守なんですが、彼女が恋をした新田義峯との間には過去にある出来事があって、単純に言うと頓兵衛は悪い人。義峯を頓兵衛が殺そうとしているのを知ったお舟は、命がけで義峯を守ろうとするんです」
実の父親が、娘の恋した相手の命を狙うなんて、そんな……。
義太夫狂言は
江戸時代のミュージカル!?
お舟が何をするかは実際にご覧いただくこととして、義太夫狂言といわれるジャンルの、このお芝居をより楽しむためのコツをうかがってみました。どうやらそれは音楽にポイントがあるようです。
「義太夫節の語りと三味線によって表現される部分がありますので、役者のせりふだけでなく、それらをまるごと楽しんでいただければと思います。音楽は歌舞伎の大切な要素、言ってみれば江戸時代のミュージカルです」
ミュージカルといえばダンスもまた魅力のひとつ。お舟が自分の思いを吐露する場面での、義太夫節に乗っての梅枝さんの舞踊的な身体表現に注目です。
「その場面をクドキというのですが、義太夫狂言ならではの、歌舞伎独特の見せ場となっています」
お舟は梅枝さんにとって「いつか演じてみたい」と思っていた役だそうで、今回がファースト・チャレンジとなります。
2019.12.10(火)
文=清水まり
撮影=白澤 正