道具のひとつひとつも
美しい琉球びんがた
琉球びんがたの工房では、使う道具もそれぞれの職人さんが自分に合うように手作りします。
生活のなかにあるものを上手に使って作られることが多く、「型彫り」の際に下敷きに使うのは、なんと固く乾燥させたお豆腐。これに代わる使い勝手のいい素材は未だ見つからないそうで、昔も今も琉球びんがたの制作には欠かせません。
「型彫り」「型付け」「色差し」「隈取り」……。琉球びんがたが完成するまでには、さまざまな工程があります。そのすべての工程に、卓越した職人技と繊細な美意識が凝縮しています。
琉球びんがたの彩色には、顔料と天然染料が主に用いられます。工房ごとに使う素材や配合が異なり、味わい深い独自の色彩を生み出します。
古くから琉球びんがたの染料として用いられてきたのがコチニール。南米にすむカイガラムシの一種から作られる顔料です。
琉球王朝の時代にはとても希少な舶来品で、しかも極めて高価。王侯貴族だからこそ、この贅沢な顔料を用いた琉球びんがたを身にまとうことができたのです。
工房の最上階に上がると、窓の外に那覇市街を一望にできる爽快なスペースが。
沖縄のまばゆい光に包まれる空間に、まるで宙を舞うように長さ約13メートルの琉球びんがたが乾燥の工程に入っています。こんな美しい光景に出会えるのも、工房を訪問する楽しさのひとつです。
栄華を極めた琉球国の王城・首里城のお膝もとで、長い伝統を受け継いできた琉球びんがた。工房を訪ねてみればきっと、この場所でしか感じ取れない美しさを発見できることでしょう。
2019.11.07(木)
文=矢野詔次郎
撮影=鈴木七絵