琉球びんがた普及伝承コンソーシアムでは、このたびの首里城大火につきまして一日も早い復旧・再建を願うとともに、沖縄文化の保全・発展に携わる組織として、できるかぎりの取り組みをしていきたいと考えております。
琉球王国の時代から脈々と受け継がれ、かつては王侯貴族だけが身にまとうことができたという「琉球びんがた」。一枚の布の上に鮮やかな色彩で表現される沖縄独自の感性は、今も大いに人々を魅了しています。
そこで、この伝統工芸の美しさの秘密を探る旅へとご案内しましょう。
紅型と書いて「びんがた」。
その歴史は古く、14世紀にまでさかのぼるといいます。琉球王朝の貴族の衣裳として華麗さを競い、交易品・朝貢品として遠い異国の人々をも魅了しました。
しかし、琉球王朝の終焉とともに宮廷に仕えたびんがた職人たちは、市井へと出ることとなります。やがてその卓越した技能が生み出す作品は、広く沖縄の人々に愛されることとなり、この島を代表する文化として受け継がれることとなったのです。
現在では、キモノや帯などの和装品のほか、風呂敷、タペストリー、ファッション雑貨など、さまざまなアイテムにびんがたが取り入れられ、多くの作家さんたちが活躍しています。
なかでも首里(那覇市)にある城間びんがた工房は、琉球王朝の時代からなんと16代にわたってその技と感性を受け継いできた名門。王朝時代から現存するという工房は今やはわずか2軒のみで、そのうちのひとつです。
赤い琉球瓦の門をくぐると、そこには周囲の喧噪が嘘のように鬱蒼と草木が生い茂っていて、なんだか異世界に迷いこんだかのようです。
工房では、昔ながらの手技を守る職人さんたちが寡黙に自分たちの仕事に集中していました。那覇の中心街が近いにもかかわらず、そのビル群も見えない小さな森のなかで、古くからの工芸を守り継いでいる人々……。
この場所にだけ、奇跡のように古き良き時間が流れているようです。
現在、城間びんがた工房を率いるのは、16代目当主の城間栄市さん。
バティックに代表される奥の深い染織文化が息づくインドネシアで修業したという貴重な経歴の持ち主で、伝統技法をまっすぐに受け継ぎながら、独自の作品世界も創りだしています。
工房には女性の職人さんもたくさんいらっしゃいます。沖縄県立芸術大学などで染織を学んだ後に工房入りを希望する人も多いそうで、琉球びんがたの未来を担う若い世代も現場で活躍しています。
びんがた(紅型)の文字通り、その要となるのが型紙。沖縄の森羅万象を美しくうつし取った伝統模様から、新鮮な感性にあふれる新作モチーフまで、一枚の型紙の上に表現される世界観は、実に多彩で鮮やかです。
緻密に彫り上げられた型紙は、それ自体がひとつの芸術品。
歴代の職人さんたちが苦心の末に完成させ、そして代々大切に受け継がれてきた型紙は唯一無二のもの。まさに工房の宝物です。
2019.11.07(木)
文=矢野詔次郎
撮影=鈴木七絵