世界を旅する女性トラベルライターが、これまでデジカメのメモリーの奥に眠らせたままだった小ネタをお蔵出しするのがこのコラム。敏腕の4人が、交替で登板します。

 第183回は、活況を呈し続ける上海にたたずむ、洗練を極めたホテルを大沢さつきさんが訪れます。

上海独特の建築様式が面白い

ちょっとNYな雰囲気のフラットアイアンビルも立っている「フランス租界」。

 上海といえば、米国「Global Language Monitor」による第10回「世界のファッション都市」ランキングで、東京よりも上位の10位。アジアNo.1の国際都市は、川沿いの道に並ぶ租界時代の建物と対岸に林立する近未来的なビルとの対比が有名だ。

 で、この上海。2017年から18年にかけ、インターナショナル・ホテルが相次いでオープンし、ますます活気に満ちている。中国一のビジネスタウンだが、観光にも強いメトロポリスだ。

 そんな上海で、もっとも洗練されているエリアが「フランス租界」と呼ばれる地域だ。文字通り租界時代のフランス人居住区だったところ。アール・デコ調の建物が並び“東洋のパリ”とも呼ばれる。

“上海の竹下通り”ともいうべき人気街「田子坊」。まず外壁状に店舗があり、中に入るとまた、びっしりとショップが続いている。

 クラシックな建物が適度に点在し、広い車道の両脇にはプラタナスの街路樹が配されるという、極めてお洒落なつくり。

 もちろん新しいショピングビルなどのモダンな建物もあるのだが、メインは租界時代のクラシックな建物。そうした建物をリノベートして使うのが、上海最先端。ジモティにとっても、閑静でソフィスティケートされた場所として憧れの場所らしい。

「カペラ上海」の入り口。上の写真の「田子坊」と同様のつくりなのが分かるかと。残念ながらまだ季節が早すぎて、プラタナス並木に葉がないので、ちょっと寂しい。

 そんな「フランス租界」の特徴を生かしているのが「カペラ上海・ジャン・イエ・リ」というホテル。

 オープンラッシュのホテルの中でも、この「カペラ上海」と「アマンヤンユン」とが、抜きん出て特徴的。レトロモダンの魅力をふんだんに香らせるホテルとして、ツーリスティックを好まない旅行者に人気だ。

 ただし「アマンヤンユン」はいかんせん遠い。市内から車で小一時間かかるので、ちょっと不便。市内観光にも便利な場所で、もっともレトロモダンな「カペラ上海」に滞在してみた。

こんな感じで客室が通路に面して並んでいる。外側のレンガは新しいものだが、構造自体は古い建物をそのまま生かしてリノベート。

 「カペラ上海」は“石庫門”という、中国と西洋を融合させた建築スタイルの建物をリノベートして2017年9月にオープンした。

 “石庫門”は、間口の狭い建物が連なり、共同の通路を囲むように立っている。さらにこれらの建物を高い塀で取り囲むというのが特徴の、上海独特の建築様式だ。

ルーフテラスからの眺め。各客室が連なっているのが見える。建物が続いている分、火災の危険も大きかったので、日本の“うだつ”のような防火壁も施されている。

 「カペラ上海」の場合は、外壁状に連なるブティックやレストランがあり、メインゲートを抜けてホテルの敷地へと入る仕組み。敷地内にもゲートがあって、客室に入るには、ルームキーでこのゲートを開けなくてはいけない。

 このシステム、セキュリティ万全というだけでなく、後日街を歩いていたら、昔の建物にもゲート・イン・ゲートがたくさんあった。元々、物騒な都市部での騒動や喧騒をシャットダウンするという構造なのだ。

ゲートを入ると、昔の給水塔がシンボルとして残されている。夜になると7色ものライトアップで、雰囲気満点。左が外壁側で、右にレセプションやライブラリー。
“カペラ”といえば、宿泊ゲスト専用ラウンジのライブラリー。写真集などの蔵書も楽しめるが、ちょっとした飲み物などが用意されていて、チェックイン&アウトの時間もゆったり過ごせる。

2018.05.15(火)
文・撮影=大沢さつき