「相棒」と一緒に生み出した
オリジナルの焙煎レシピ

焙煎機「ラッキー」とは、かれこれ23年の付き合い。「まだ一度も壊れたことのない優秀な相棒です」

 実は画家でもあるワニさん。焙煎人として、自宅でロースター「中川ワニ珈琲」を始めたきっかけが気になるところ。

「画家を目指して、絵を描きながら美術関連の仕事をしていた28歳のとき、友人から、あるカフェのオーナーが古くなった焙煎機を手放そうとしているという噂話を聞きました。カフェをやるのは手間とコストがかかるけど、ロースターであれば、家の一角に焙煎機を置いて、絵を描く傍らで作業をすることができるのではないかと思い、すぐさまそのオーナーに連絡をとりました。すでに譲渡先が決まっていると言われましたが、何度も懇願して、手に入れることができたんです」

「ラッキーとの巡り合わせも、ひとつの縁だと感じています」

 ロースターを始めた1994年当時は、「焙煎」という言葉も今ほど普及しておらず、その技術を教えてくれる人もすぐには発見できなかった時代。ワニさんは、独学で焙煎技術を磨き、5年がかりでオリジナルの「レシピ」を確立した。

「僕の焙煎技術は、ひとつのレシピなんです。たとえ、使用する生豆の種類や道具が変わったとしても、自分のレシピさえもっていれば、それに従って確実に美味しいコーヒーを生み出すことができる。そうした信念のもと、より確かな技を極めてきました」

 ポイントは、ローストビーフを作るときのような繊細な火の通し加減で、豆の中心まできちんと焼き上げ、ふっくらと香ばしく仕上げること。プロでも成功するのは至難の業である。

左:緑からオレンジ、そして茶へと、ローストが進むにつれて変化する豆の焼き色と香りをこまめにチェックしながら、最適なポイントで焼きの手を止める。
右:豆をひとつまみして口に入れるワニさん、「豆にない味は、コーヒーにも現れませんからね」と味わいをチェック。

焙煎を知ると
コーヒーはもっと身近で楽しい存在に

 こうした焙煎の過程をもっとオープンにして、コーヒーを味わう人にわかりやすく伝えていくべきだと、ワニさんはかねてから考えてきた。

焼き上がった豆を素早く冷ます作業からは、妻の京子さんも加わり、夫婦二人三脚で。

「毎日のように口に入れる食材(コーヒー)が、どのように調理されているのか、消費者としてきちんと理解する必要があると思います。焙煎を知ることで、コーヒーがより身近なものに感じられることでしょう。ひとつ残念なのは、豆はパッケージ売りをされていることがほとんどなので、その状態がわかりにくいこと。機会があれば、ぜひ手にとって豆の様子を観察してみてほしいですね」

「美味しい料理を作りたいと思ったときに、まずは丁寧に食材選びをするような感覚で、コーヒー豆を見つめてほしいですね」と、優しく豆に触れる京子さん。

 では、美味しいコーヒー豆にはどのような特徴があるのだろうか。毎朝ワニさんにコーヒーを淹れるのが日課だという京子さんが、その見分け方を教えてくれた。

「まずは、見た目に感じるバランスの良さ。きれいな色や形をしているなと感じる豆は、コーヒーとして味わったときにも、心地よく体に入っていきます。それから、香りも大事なポイントですが、中でも、自分が嫌な臭いにもっと敏感になってほしいと思います。というのも、コーヒーは大前提として良い香りがするもの。ですから、煙い、炭くさいなど、自分に合わないものがはっきりすることで、より好みのコーヒーに近づくことができるはずです」

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2017.04.12(水)
文=中山理佐
撮影=佐藤 亘