味わう人の気持ちにそっと寄り添う
温もりのコーヒー
「好きな飲み物は?」と聞かれて、「コーヒー」と答える人も多いはず。だが、さらにその好みのタイプを問われたときに、豆の産地や焙煎度といった具体的な内容を踏まえ、自分のお気に入りのコーヒーを相手にきちんと伝えることができるだろうか。
毎日のようにコーヒーを飲んでいるとすれば、それはもはやライフスタイルの一部。本や映画にそれぞれ好みのテイストがあるのと同じように、コーヒーにもオリジナルの味わいを求めてみると、世界がちょっぴり豊かに感じられるかもしれない。
「子供の頃、コーヒー好きの両親が、毎朝ハンドドリップでコーヒーを淹れていた光景をよく覚えています」と温かな笑みを浮かべる、焙煎人の芦川直子さん。彼女が店主を務める、祐天寺の「coffee caraway」には、ゆったりとした優しい時間が流れている。
もともと、コーヒー豆のインターネット通販からスタートし、2008年に焙煎所兼喫茶として実店舗を構えたcarawayでは、豆の美味しさを多角的に見つめてきた芦川さんが、一人一人の好みに沿ったフレーバー選びを「コーヒーコンシェルジュ」としてサポートしてくれる。
ユニークなのが、そのときに用いる「味わいチャート」。豆の産地や焙煎度を表記する店が多い中、こちらでは、たとえコーヒーに詳しくない人でも、自らの「感覚」で気軽にメニュー選びができるよう、親切な工夫がなされている。
「私自身、コーヒーが好きになったばかりの頃に、自分の飲みたい味わいをどのような言葉で店員さんに伝えたら良いのか、とても悩んだ経験があります。もしケーキだったら、見た目からおおよその味を想像して選ぶことができますが、コーヒーはそうはいきませんよね。ですから、どなたでもイメージがつかみやすいように、味わいを1日の時間の流れにたとえて表現してみたんです」
「朝」、「午後」、「おやつの時間」、「夜」の4つの時間帯の中から、例えば「朝であればスッキリした感じ?」というふうに、それぞれが味わいをイメージし、感覚的に好みのコーヒーにたどり着けるようになっている。
「これに限らず、頭に浮かんだイメージを何でも自由に伝えていただきたいと思います。そうして私たちとやりとりを重ねるうちに、だんだんと自分の好みもはっきりして、自ずとコーヒーの種類にも詳しくなってくるはずです」
2017.04.08(土)
文=中山理佐
撮影=佐藤 亘