コーヒーの味には
淹れた人の心がにじみ出る

ワニさんが淹れてくれたコーヒーは、ひと口飲むと、そこから幾重にも広がる深い味わいが魅力。

 焙煎人としてのワニさんのライフスタイルに欠かせないのが2つの旅。ひとつは、海外にあるコーヒー豆の産地を訪れる旅で、近年では、ラオス、タイ、ベトナム、インドネシアといった東南アジアの国々を巡っているという。

「向こうには、原始的なものから新しいものまで、さまざまなスタイルのコーヒーカルチャーが混在しているんです。その、まだ完全に整備されていない、個性豊かな味わいのバリエーションがとても気に入っています」

 もうひとつは、より多くの人に美味しいコーヒーを伝えるために、日本各地で開催している「コーヒー・焙煎教室」の旅である。初心者からプロまで、さまざまなレベルの参加者が集うこの教室には、本格的にハンドドリップの手法を学ぶコースと、最近始めた、自宅でも手軽にできるザルを使った焙煎を体験するコースの2つがあり、いずれも人気を呼んでいる。

左:「コーヒー豆のハンティングというよりも、美味しいコーヒーを生み出すための、チームを作りに行っているような感覚です」と、インドネシアで出会った人々との交流を嬉しそうに振り返るワニさん。
右:毎日、赤ちゃんの具合を観察するような温かな眼差しで、コーヒー豆と対峙すると、細かな変化に気づくという。

「コーヒーをひと口飲むと、それを淹れた人の心の様子が手に取るようにわかるんです。悩みや不安などの気持ちは、すべて味になって現われます。それぞれが美味しいと納得できる着地点に行きつくよう、アドバイスを重ねていくうちに、だんだんと皆さんの表情が明るくなってくる。当然、味わいも大きく変化してきます。最終的に、自分で淹れたコーヒーを笑顔で飲んでいる姿を見ることが、何より嬉しいですね」

炊きたてから
冷やご飯までを楽しむように

 フェイスブック以外では、とくにお店の情報発信は行っていないものの、全国各地から様々な注文の電話が入るというワニさんのコーヒー豆。人々を魅了する、その味わいの特徴は何なのだろうか。

「例えば、美味しいお米が、炊きたてから冷やごはんまで味わい深くいただけるように、1杯のコーヒーも時間の流れとともに味わいの変化を楽しみたいもの。ですから、冷めても美味しいコーヒーを心がけて、焙煎をしています」

最近では、「自分で淹れたコーヒーをタンブラーに注いで、会社に持って行って飲みたい」と、そのための豆をリクエストする女性もいるのだとか。

 コーヒーは、「好奇心の入り口」だというワニさん。これからも「縁」を大事に、味わい深いコーヒー道(みち)を歩んで行きたいと笑顔を見せる。

「美味しさの扉は、味わう人それぞれが開くものだと思います。ぜひ、個性豊かなコーヒーの楽しみ方をしていただきたいですね」

中川ワニ珈琲(中川ワニ∞アトリエ)
https://www.facebook.com/cottoriwa23/

中川ワニ
1964年石川県生まれ、画家・焙煎人。中学時代にコーヒーに目覚め、1994年「中川ワニ珈琲」を立ち上げる。以後、焙煎業の傍ら、全国各地でコーヒー教室やJAZZのお話会などを行っている。著書に『とにかく、おいしい珈琲が飲みたい』(中川ワニ、中川京子/主婦と生活社)などがある。

2017.04.12(水)
文=中山理佐
撮影=佐藤 亘