肉のセラーにずらりと並ぶ名だたるブランド牛

 世の中は相変わらずの肉ブーム。骨付きステーキや焼き肉など、「今日は肉!」と決めた日には、たっぷり堪能していることと思います。

 でも、ドーンと食べるのが醍醐味と思っているからこそ、案外、「肉の食べ比べ」をする機会はないのでは。

 そこで、西麻布のレストラン「ジ・イノセント・カーベリー」が、2017年1月にそんな新境地を開拓しました。さまざまな和牛のデギュスタシオン(お試し)コースが登場。割烹仕立てになっていて、これをオーダーできるのは店内約50席のうち、「和牛ラボ」と名付けられた10席のカウンターのみ。もちろん、キッチンは目の前です。

肉のセラーにずらりと並ぶ、国内各地の名だたるブランド牛。

 エントランスを入ったところにある肉のセラーにずらりと並ぶのは、国内各地の名だたるブランド牛。日本ではまだ珍しい、ブッチャーラボ(肉の切り分けスペース)も併設されています。

 さて、コースの1皿目は「Raw 和牛」。生肉です。

コースの一皿目「Raw 和牛」。

 一時、禁止となっていた生肉ですが、現在、牛肉に限っては、衛生上の問題がなければ提供してもいいことになっています。定期的に国の検査もあるのだとか。むろん、こちらのお店はそれを難なくクリア。安心して食べられます。

 黒いお皿には、左から、但馬牛のももかぶりという部位で作った生ハムにマスカットの白和えを添えたもの、但馬牛のとも三角(後ろ足の付け根あたり)、花乃牛のいちぼ(お尻のあたり)、黒毛和牛の芯たん(下の付け根のほう)。もちろん切りたてです。

 色や霜降りの入り方など見た目にも差があり、口にすると、もちろんそれぞれに美味。なんといっても花乃牛のとろけるような舌触りと、口中に広がる和牛らしい味が印象的で、聞けば、鹿児島の花乃牛は、通常30カ月の月齢で出荷されるところ、40カ月をかけて育てて出荷されるのだとか。

きれいに掃除された牛肉たち。

 2皿目の前菜は、花乃牛のトロ刺の松前和え。使っている部位はとも三角。脂と赤身のバランスがよく、昆布、エシャロットやクレソンといったパリッとした歯ごたえのものとサラダ感覚でさっぱりと食べられ、生肉が続いても飽きません。

花乃牛のトロ刺の松前和え。

 この後はお口直しに春菊のスープが。味の強い牛肉には濃い緑の野菜がとても合います。

お口直し、春菊のスープ。

 そして「部位」というタイトルで、もも肉の食べ比べのお皿が出てきました。左が佐賀牛、右が花乃牛です。どちらも筋っぽさは全くなし。やわらかいのですが、噛みしめるほどに肉の味が出てきます。そして余韻が微妙に異なる。個人的には花乃牛の力強さにやられました。

もも肉の食べ比べ。

 花乃牛、意識して食べたのは初めてでしたが、すっかり虜に。これがラボの楽しさだなあとも実感。塩の横にあるのは、ホースラディッシュとワサビを混ぜたもので、「ワインのあてになる」とおかわりする人もいるのだとか。

八ヶ岳のミエ・イケノ。

 ワインといえば、この日のワインはペアリンクをオーダー。国産ワインで組み立ててくれていたのですが、佐賀牛には八ヶ岳のミエ・イケノのシャルドネ(しかも通常のシャルドネではなく、夜中に摘んだブドウで作ったものでした)、花乃牛には、同じワイナリーのメルロが。

 同じ部位なのに、シャルドネとメルロという、品種どころか、色も異なるものを合わせてくるとは。ワイン好きの方は、このワインの違いから肉の印象が想像できるかな?

2017.03.19(日)
文・撮影=浅妻千映子