ストレスなくおなかにおさまる
次には「融点」という一皿。脂の融点の低いものを集めたそうなのです。低い温度でもとけるということは、脂が上質で、体への負担が軽いということ。
焼いて出てきた3品、それは恐れ多い顔ぶれでした。左から、松坂牛のシャトーブリアン、神戸牛のサーロイン、但馬牛のハラミ。ハラミはいわゆる焼き肉風の味付けです。
感動したのは、松阪牛のシャトーブリアン。一頭の牛からごく少量しか取れない、ヒレのど真ん中にあるシャトーブリアンという部位がものすごく高価なのは知れたところ。それが松阪牛ともなれば……、一生に一度のひと口かもしれませんよ。
こんなにも柔らかく、そしてしっかりした味なのに、どこか優しさを感じさせる。肉のポテンシャルと火の入れ方で、そのものの味が最大限に引き出されているのを感じました。
ワインは、大阪にある仲村ワイン工房の「がんこおやじ」という銘柄。シェフの岡田賢一郎さんのお肉への知識、そして頑ななまでの思い入れと重なるようなワイン名です。
右:花乃牛の内ももを使ったタルタルステーキ。
「新作」と名付けられた最後のお皿は、花乃牛の内ももを使ったタルタルステーキでした。コリアンダーとブルーチーズ卵の黄身を好みに合わせて自分で混ぜます。
お醤油がきいているからなのか、これがちょっと白いご飯が食べたくなる味。後を引く味でもあり、あっという間に完食。いい肉というのは、本当にストレスなくおなかにおさまるものなのです。
ガーリックライスとテールスープが出て、料理は終了。甘味へと続きます。
しかし、肉が続いた後の口は、洋風のスイーツを欲していませんでした。その気持ちを察してか、出てきたのはぜんざい。中にはピスタチオのアイスクリームが。冷たさと和風の甘さで心地よくコースが締めくくられたのでした。
コースの肉の種類は、日によって変わります。その牛、その部位を「なぜ生で出すのか」「なぜ火を通すのか」と、そこには岡田シェフの熱い思いがあります。
なんとなく手法を選んでいるのではありません。カウンター越しにぜひそれを聞き、今までとは違なる和牛体験を。お気に入りの牛や部位を発見したり、意外なワインとの相性も見つかるかもしれません。
お酒は、世界のワインや、日本酒とのペアリングも今後は視野に入れているそうです。カウンター以外の席では、割烹仕立てのコースはオーダーできませんが、数あるお肉を食べ比べることはもちろん可能。みんなでワイワイ、自分たちで肉を選びながら、大きめポーションで食べ比べをしてみたい、なんていうときにはテーブル席をチョイスするのが正解です。
ジ・イノセント・カーベリー
所在地 東京都港区西麻布1-4-28
電話番号 03-5411-2911
営業時間 17:00~24:00
定休日 日曜
予算 WAGYU LABO 12,000円~(2名から。予約可)
http://www.innocent-carvery.jp/
[2017年1月訪問]
浅妻千映子(あさづまちえこ)
1972年東京生まれ。聖心女子大学卒業。鹿島建設勤務を経て、フードジャーナリストに。「dancyu」などの雑誌や書籍で執筆活 動を行う一方、料理研究家としてワインスクールであるアカデミー・デュ・ヴァンで料理講師も務める。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート。
Column
新店来訪! 美味しい出合いに一番乗り
ニューオープン、シェフやメニューが変わった店、面白い企画を立ち上げた店……などなど、なにかと「新しい」店を一番乗りで紹介するページ。「美味しい出合い」にご注目ください!
2017.03.19(日)
文・撮影=浅妻千映子